アンハッピー・ウエディング〜後編〜
女番長寿々花さんと共に、俺はスマホのマップアプリの指示に従って、家の近くにある神社に向かった。

「お…。着いたぞ。ここだな」

「わー。悠理君、凄いねー。道案内完璧だ」

「いや、マップアプリのお陰だから…」

これを使えば、余程の方向音痴でもない限り、行きたいところに行けるよ。

…それにしても。

「人、すっくな…」

小さい神社だということは分かっていたけど、これほどとは。

元旦だっていうのに、本当に正月か?と疑いたくなるほど閑散としている。

…今日、本当に正月だよな?

実は一日日付を間違えていて、今日が大晦日だってことはないよな。

いや、ないわ。今朝年賀状来てたし。

それに、全く無人という訳ではなく。

俺達の他にも、参拝客がちらほら…5、6人くらいは姿が見える。

バイトらしき巫女さんが、売店でおみくじやお守りも販売している。

それにしたって、人すっくな…。

皆、家で寝正月してんのかなぁ?

午後から参拝客が増えるのだろうか。

それとも初詣は後回しにして、福袋を買いに行ったか?

…まぁ、良いや。お陰で、お参りするのに並ばずに済む。

「さて、じゃあお参りしようぜ」

「ふぇっ、ちょっと待って、悠理君」

ん?

「お参りする前に、お願い事考えなきゃ…!何にしよう?」

「いや、別に何でも…」

「うーん。うーん…」

と、寿々花さんは腕組みしてしばし考え。

「…よしっ、決めた。お願いしよー」

お願いじゃなくて、お参りな。お参り。

乙無辺りが聞いたら、「邪神以外の神に祈るなど不毛」と言いそうだが。

あいつはバチが当たるんじゃないか。

「それじゃ、お賽銭を入れて…」

寿々花さんと並んで、百円玉を賽銭箱に放り込み。

鈴をガラガラと鳴らして、パンパン、と手を打ち鳴らす。

ここでお願い事をするところだが…。

ちらりと横を見ると、寿々花さんは目を閉じて両手を合わせ、何やら必死に祈っていた。

すげー真剣に祈ってるんだけど。どんなお願いをしてるんだ?

えーと。俺は何を…うーん、そうだな…。

去年はお世話になりました。今年もどうぞ宜しくお願いします…とか。

とにかく元気が一番ということで、健康祈願。

それから、他には、えーっと…。

…。

…今年一年、何事もなく、寿々花さんと仲良く暮らせますように。

うん、これだな。

神に祈るんじゃなくて、それは自分の力で努力しろ、と言われそうだが。
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