アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「さてと…」

お参りもしたし、おみくじも引いたし。

あ、おみくじはちゃんと、神社のおみくじ掛けに結んできた。

証拠隠滅。
 
「じゃあ、次はそろそろ…」

「おうちに帰るの?」

「帰らないよ。福袋を買いに行こう」

「わーい。やったー」

いい加減、その女番長コートを何とかしよう。

気にしないようにしているけど、さっきから道で通りすがった人や、神社の参拝客が。

ちらちらと、こちらに視線を向けているような気がする。

間違いなく、寿々花さんの女番長コートのせいだ。

このコートの代わりになるものを買おう。もっとまともなコートを。

神社を出た俺達は、バスに乗って、真っ直ぐにショッピングセンターに向かった。

神社は閑散としていたのに、ショッピングセンターはというと。

「うわぁ…。すげー人…」

「すごーい。人が豆粒みたいだー」

豆粒言うな。それだと俺達も豆粒の一つになるだろうが。

皆、初詣にも行かずに家で寝正月してんのかと思ったら。

揃いも揃って、ショッピングセンターに福袋を買いに来てたのか。
 
成程…。正月だってのに、ご苦労様なことだ。

って、俺もこの場に来ている以上、他人のこととやかく言う資格ないけどな。

「うっかりはぐれたら、二度と会えそうにないな」

「えっ。悠理君に会えないのはやだ」

おみくじで大吉を引いてもけろっとしていたのに。

冗談交じりの俺のその一言で、一気に顔が曇った。

いや、だって寿々花さん、スマホ持ってないから。

はぐれても、連絡を取り合って合流するってことが出来ないだろ?

いい加減あんたはスマホを…ガラケーでも良いから、せめて携帯電話というものを持つべきだ。 

が、今そんなことを言っても仕方ないので。

「大丈夫だよ。それじゃあ…手、繋いでおこう」

と、俺は寿々花さんに片手を差し出した。

一番古典的な迷子対策である。

気休めみたいなもんだが、まぁ、効果はあるだろう。

あとは、俺が寿々花さんから目を離さないように気をつける。

「…!…うん」

何故か寿々花さんは、目を輝かせて俺の手をぎゅっと繋いだ。

「えへへ。悠理君、手温かいねー」

何で嬉しそうなんだ?

「そういうあんたは冷たいな…。手袋も買っとくか…?」

「大丈夫だよ。悠理君が手を繋いでくれたら、手袋より温かいもん」

何?その謎理論。

つーか、何でそんなに楽しそうなのかもよく分からないんだけど。

久し振りに買い物しに来たから、寿々花さんも楽しみなのかもしれない。

思えば、寿々花さんと買い物に来るのはいつ以来だ?

一人で買い物なら、ちょくちょく来たことあるんだけどな。

去年のクリスマスの前に、ショッピングセンターでクリスマスプレゼントを買ったし。

その前は、もう少し都会のデパートにクリスマスツリーを買いに行った。

でもあの時は一人だったから、寿々花さんと一緒に来るのは久し振りだ。

去年の春、制服しか服を持ってないという寿々花さんの為に、私服を買いに行って以来じゃないか?

そう思うと、何だか新鮮な感じ。

「えへへ。悠理君とお買い物〜♪」

…何故か寿々花さん、めっちゃ嬉しそうだし。

こんなに喜ぶなら、今年はもっと頻繁に、一緒に買い物に誘おうかな。
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