アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「私、福袋買いに来るの初めてだ」

と、寿々花さん。

そうだろうと思った。

何なら、初詣したのも初めてなんじゃないか?

「悠理君は毎年来るの?」

「毎年ってことはないけど…。たまにな」

福袋って、色んな商品が詰め込まれていてお買い得だろ?

洗濯用洗剤の福袋とか、キッチンペーパーやティッシュペーパーなどの紙類の福袋とか。

そういう、日用品の福袋をよく買ってた。

それぞれ単体で買うより安いだろ?たくさん入ってるし。

ただ、一般的に福袋でよくある、洋服の福袋はあまり買ったことがない。

だって、洋服の福袋ってさ。

正直、あまり好きじゃない…欲しくない服も一緒に入ってるだろ?

5着入ってるとしたら、3着は好きな服だけど、残り2着はあんまり好きじゃない、みたいな。

そうなると、その2着は人に譲るか、タンスの肥やしになるか。

最悪、ろくに着ずに捨ててしまうことになって。

何だか凄く勿体無い気がして、それなら福袋である必要ないかなって。

最初から、欲しいと思う3着を普通に買った方が、無駄がなくて良くね?

その点日用品の福袋なら、無駄になることがないから。

って思うのは、俺が貧乏性だからかもしれない。

「何が入ってるの?福袋って」

「それは…色々だよ。洋服が一番多いと思うけど…。俺がよく買う、日用品の福袋とか…」

雑貨とか食べ物とか、色々あるんじゃねぇの?

すると、早速。

「わ、見て見て。お菓子の福袋だって。お菓子がいっぱい入ってるー」

「おい、こら。お菓子に釣られるな」

服。上着。コートが優先だ。

さっきから人混みの中で、寿々花さんの謎コートがすれ違う人の視線を集めてること。

気づいてない、とは言わせないぞ。

そんな人と手を繋いで歩いている以上、俺も関係者だと思われてるんだろうな。

違うんだよ。変なのは寿々花さんだけであって、俺はまともだから。

「コート買いに行くぞ。先に。ほら」

「ふぇー」

寿々花さんを引っ張るようにして、洋服売り場に直行。

えーと、上着…コートは…この辺だな。

うぅ。女性用の洋服売り場に男が紛れ込むの、すげー気まずい。

いつぞやの、女児向け玩具コーナーよりはマシだけど。

あれに近い気恥ずかしさがある。

「さぁ、好きなのを選んでくれ」

「うーん。そうだなー…どれが良いかなー」

しばし、売り場を見て回って。

寿々花さんが選んだ一着は。

「よし、じゃあこれにしよーっと」

お。すんなり決まったな。

じゃあそれに…と、思ったが。

そのコートの背中を見て、俺は仰天した。

またしても、今着ているコートと同じく、背中に文字がプリントしてある。

「激安特価」の文字が。

ちょっと待て。そうじゃない。

新しいコートを買えとは言ったけど、新しいおもしろコートを買えとは言ってねぇよ。

つーか、何だよ激安特価って。文字のセンスが皆無。

「違う。そういうことじゃない」

「…?駄目だった?『触るな危険』の方が良かった?」

「違う。そういう問題じゃない」

背中にそんな謎の文字が印刷してある服はやめよう、って話だよ。

つーか、何でそんなコートが普通に売ってんの?

買おうとする方も買おうとする方だが、売る方も売る方だよ。
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