アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…また来客かよ?

この家、来客多くね?

今、家の中スイカの甘ったるい匂いが充満してるからさ。

あんまり人を招きたい状態じゃないんだが。

ま、いっか。

いつぞやの、外国インスタントラーメンの時とは遥かにマシ。

「寿々花さん、ちょっと出てくるよ」

「うん。いってらっしゃい」

寿々花さんをリビングに残して、俺は玄関に向かった。

また雛堂だろうか?

それとも別の人…、

「はい、どちらさ…ま、」

「やぁ。来てあげたよ」

「…」

…訪ねてきた円城寺の、ムカつくドヤ顔と目が合って。

「…あ、間に合ってます」

俺は思わず、反射的に玄関の扉を閉めてしまった。

ふぅ。一件落着。

俺は何も見なかったってことで。

…しかし、勿論そうは行かなかった。

「おい!こら、何で閉めるんだ。ここを開けろ!」

お怒りの円城寺が、インターホンを連打。

やめろっつーの。

このままお引取り願いたかったが、そういう訳にはいかない。

仕方なく、俺はもう一度玄関の扉を開けた。

すると勿論、円城寺のムカつく顔とご対面。

ちっ。やっぱりあんただったか。

「何をするんだ、使用人の癖に生意気な」

何だと?

「これだから、下賤の輩は嫌なんだ。自分の立場ってものを理解してないんだから…」

あー、はいはい。うるせー。

「…何の用だよ?」

またアレか。オペラにでも誘いに来たか?

それとも、今度はピアノのコンサートさ?

生憎うちの寿々花さんの芸術は、スケッチブックの似顔絵レベルだからな。

オペラ(笑)やコンサート(笑)なんて、寿々花さんには全く興味がないようだぞ。

大体、そういうの誘うつもりなら事前に連絡をしろ。

突然やって来るなんて、マナー違反だろうが。

しかし、今回の円城寺は、寿々花さんを連れ出すことが目的ではなかった。

「挨拶に来たんだよ。寿々花様にね」

「…挨拶?」

「9月から新しい学年が始まるからね。明日の朝には日本を発って、イギリスに戻るつもりなんだ」

それを聞いて、俺は思わず渾身のガッツポーズをかましそうになった。

やったぜ。

どれほど、この日を待ち侘びたことか。
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