アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…しかし。

寿々花さんの格好がまともになっても、やっぱり隣を歩くのは恥ずかしいということに、気づいた。
 
何でか、って?

…女番長コートを脱いだ途端、寿々花さんが美人過ぎて。

俺じゃ全然釣り合わなくて、隣を歩いてると恥ずかしいんだよ。

感じるんだもん。視線を。

「うわ、あの人美人だな…。…ん?横にくっついてるゴミは何だ?」みたいな。

「あんな美人な人に、あんな不細工が…」みたいな。

「何だ、あのカップル。月とすっぽんw」みたいな。

そういう、俺に対する侮蔑の視線を。

なんてことだ…。結果的に、やはり寿々花さんには女番長コートが最適だったというのか…。

これは盲点だった。

せめて、もうちょっとシンプルなデザインのコートを選べば良かった。

服も可愛いし寿々花さんも可愛いから、余計に相乗効果が…。

…しかし、寿々花さんは俺が恥ずかしい思いをしていることなんて、全く気づいておらず。

「悠理君、福袋」

「あ…?」
 
「福袋、買って帰ろー」

呑気な顔で、何も気づいてない無邪気な顔で、福袋を選んでいた。

…あんたは良いなぁ。呑気で。

俺もそのくらい鈍感になりたいもんだよ。

「…?悠理君、どうかした?」

「いや…何でもないよ」

分かった。もう気にするのはやめるよ。

俺はあれだから。寿々花さんの彼氏とか恋人じゃなくて。

ただの付き人だから。皆誤解しないでくれよ。

心の中で、そう言い訳をして。

「折角だから、洋服の福袋を買っていこうか。あんた全然普段着持ってないだろ」

「そんなことないよ」

「あと、パジャマ。パジャマを買ってくれ。いつまでも俺のジャージ姿で寝てたんじゃ…」

これを機に、寝間着も新しく新調して。

いい加減、俺のお古ジャージはお役御免にしてくれ。

しかし。

「あ、見て見てー。何が入ってるか分からない、お楽しみ福袋だってー」

おい、こら。話を聞け。

あと、そういうお楽しみ系福袋はやめとけ。地雷だ。

売れ残りのガラクタを適当に詰め込んだだけだ。残らずゴミ箱に捨てることになるぞ。

…それでも、嬉しそうに福袋を選んでいる寿々花さんを見ていると。

「悠理君、どれにする?どれにしよう?」

「…」

…何も言えなくなるんだから、ズルいよなぁ。

「…?悠理君?」

「いや…何でもないよ。好きなのを選んでくれ」

折角、一緒に買い物に来たんだから。

寿々花さんに任せるよ。好きなものを買ってくれ。
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