アンハッピー・ウエディング〜後編〜
遅刻しないように必死に走ったのに、校門には鍵が掛かっていて。

やっぱりあの月間予定表は、ただの印刷ミスでした…。

…ということを期待していたのだが。

全然そんなことはなかった。

旧校舎の校門は普通に開いていて、俺と同じように男子部の生徒が、ちらほらと校門を潜っていた。

やっぱり今日からなんだ。

…逆か?むしろ女子部の月間予定表が印刷ミス?

女子部も今日から新学期なのに、間違えて来週からって印刷ミスをして…。

…分からん。どういうことなんだこれは。

内心湧き上がる疑念を抱えながら、俺は自分の教室に急いだ。

すると。

「あー腕二本じゃ足りねぇー!」

「…全く、情けない人ですね」

「とか言ってんなら、手伝ってくれよ!」

「誰が。あなたの怠惰のツケを、何故僕が払わなきゃいけないんですか。見せてあげてるだけで感謝してください」

教室には、懐かしい顔ぶれが…。

雛堂と乙無が、忙しそうに机に向かっていた。

…二人共いる…。他のクラスメイトも。

ってことは、やっぱり間違いじゃない…んだよな?

しかも、なんか…取り込み中みたいなんだけど?

「…はっ!悠理兄さんじゃん!はよーっす!」

雛堂が俺に気づいて、ぱっと顔を上げた。

「お、おはよう…」

「なんか遅かったな、兄さん。正月ボケか?」

いや、そんなつもりは。

朝から色々あったんだよ。…今日、本当に新学期なのかって。

雛堂も乙無も、他のクラスメイト達も普通に登校してるってことは。

やっぱり、あの月間予定表は間違っていなかったのだ。

男子部の新学期は今日から。

じゃあ、女子部の新学期は…?今日じゃないのか?

「?何ボケーっとしてんの?」

「えっ、いや…」

「あ、さては自分と一緒だな?まだ冬休みの宿題終わってないんだろ?」

は?

「分かる分かる。自分もこの通り、ぜーんぜん終わってなくてさー。昨日慌てて、人気の和菓子屋に並んで、羊羹買ってきたんだわ」

「羊羹…?」

「甘いもので乙無の兄さんを買収して、宿題写させてもらおうと思ってな」

…ドヤ顔で言うことか?それ。

「苦労したんだぞー、その羊羹。わざわざ電車に乗って、往復2時間以上かけて行ったんだぞ。待ち時間も超長かったし。いやー寒かった」

「…雛堂。何故あんたは、そのやる気と労力を、自分で宿題をやる為に使わなかったんだ?」

羊羹買いに行ってる暇があったら、素直に宿題をやれ。

アホか?アホなのか?

それから乙無。あんたも良いように買収されてんじゃねぇ。

「正月気分で浮かれている人間が多くて、心底うんざりしてましたからね。この不平等な世の中で無邪気に笑うなんて、聖神ルデスを祝福しているようで不快だったんです」

と、乙無がなんか言い出した。

新年一発目の中二病発言。

「ところが学校に来てみると、早速不幸そうな大也さんを見て、僕は安心しましたね。そう、この醜い不平等な世界に生きる人間は、イングレア様の加護を受けていない人間は、普く不幸を享受している方が似つかわしい…」

だってよ。

全く意味分かんねーけど。

羊羹もらって喜んでんだから、あんたも浮かれてんじゃねーの?
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