アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「大丈夫だ、悠理兄さん。悠理兄さんにも手伝ってもらおうと思って、兄さんの分の羊羹も買ってきたからな」

そういう気遣いは要らない。

「ってな訳で、宿題写すの手伝ってくれ!」

「いや、俺は別に羊羹要らないから。手伝いもしないよ」

「何だと?この薄情者め!」

何が薄情だよ。自分で宿題やってないのが悪いんだろ。

「自分、まだ手が二本しかねぇんだよ!」

「誰だってそうだよ」

将来的に増えるみたいな言い方をするな。

「右手と左手で、それぞれ数学と化学を写してるんだけどさ…。まだ古典と日本史を写せてねぇんだわ。悠理兄さん、手ぇ二本もあるなら手伝ってくれ!」

何で俺が。

つーか、右手と左手でそれぞれ別の科目の宿題を写すなんて。

「器用なことしてんな…」

「だろ?毎年、宿題写すのに片手だけ使ってんじゃ、時間が勿体ないと思ってさ。長年訓練して、両手で別々の科目の宿題を写せるようになったんだ」

謎のドヤ顔。

何故あんたは、その無駄な努力を、自分で宿題をやることに使わなかったんだろう。

アホな訓練してないで、真面目に宿題をやれ。

無駄な特技だなぁ…。そして情けない特技でもある。

挙句の果てに。

「だって仕方ないだろ?冬休み、週末まであると思ってたんだもん」

…あ、そういえば。

「小中学校に通ってるチビ共も、来週の9日から学校始まるって言ってたから、自分もてっきりそうだと思ってたら…」

「早いですよね、この学校。5日から、というのはまだ聞いたことありますけど」

「まさか正月三が日が終わるなり、すぐ新学期とはな。不意を討たれた気分だぜ。…まぁ来週からだったとしても、多分宿題は放置してたと思うけど」

「僕も、別に良いですよ。正月気分で浮かれた人間の顔に、いい加減うんざりしていたところだったんです。罪の器を満たす為には、ありとあらゆる人間の不幸が必要…」

「なぁ、そんなことはどうでも良いんだけど」

と、俺は雛堂と乙無の頭の悪そうな会話を遮った。
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