アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…さて、事件(?)が起きたのは、無事に三学期が始まった一週間後。

その日、学校に行くと。

「僕は要りませんよ、そんなもの。気持ち悪い」

「気持ち悪いとは失敬な!美味しいだろうが!マツタケだぞ、マツタケ!超高級品だぞ!」

「それの何処が高級品ですか」

「どっからどう見ても高級品だろうが。喉から手が出る逸品だぞ!」

…?

朝学校に行くと、雛堂と乙無が揉めていた。

大声出して。喧嘩してる…?訳ではなさそうだが。

何の話してんだ。

多分ろくな話じゃなさそうだから、巻き込まれないうちに逃げ、

「おっ、悠理兄さんじゃん、良いところに!」

ちっ。捕まってしまった。

無理もない。元々この教室の中、十数人しかいないんだから。

嫌でも声は聞こえるし、姿も見えるってもんだ。

雛堂は、早速こちらにやって来た。

あぁ…逃げ切れなかった。

「おはよう悠理兄さん。実に良い天気だな!」

「…外、曇ってるけどな」

「実に素晴らしいキノコ日和だと思わないか?思うだろ?うん?」 

何?その誘導尋問。

今何て言った?キノコ…日和?

…は?

「そうか…。雛堂、あんたも正月バテで疲れてるんだな。いつもボケたことばっかり言ってるけど、今日はまた一段と…」

「辛辣!ボケてねーし。普通だし!至って正常だし!」

じゃあ、何で唐突にキノコがどうとか言ってるんだよ。

学校とキノコと、どう関係があるんだ?

って言うか、それより。

俺はその時、雛堂がやけにでっかい紙袋を持っていることに気づいた。

…何だそれ?

こいつ、また懲りずに、学校にゲーム機でも持ってきたのか?

いい加減密告されて、先生に取り上げられても知らないぞ。

ましてや、俺を共犯者にするのはやめてくれよ。

「雛堂…何なんだ?それ」

俺は、雛堂が持っている紙袋を指差して聞いた。

すると、雛堂は。

「おぉ。よくぞ聞いてくれた、悠理兄さん!」

あっ。聞かなきゃ良かった。

「さっきから自分、真珠兄さんにマツタケをあげようと思って勧めてるのに、真珠兄さんの奴、要らないとか言うんだぜ」

「は、はぁ…」

「マツタケだぜ?マツタケをプレゼントしてくれる優しい友人が、自分の他にいるかよって話だ。なぁ?そう思うだろ?」

…マツタケ?

マツタケって…あの、有名な超高級キノコ…のことだよな?

…本当に…?

なんか、怪しい罠が仕掛けられている気がする。

「悠理兄さんは、マツタケ欲しいよな?料理上手だもんな、悠理兄さんは。高級食材もらったら嬉しいだろ?」

「…それは…」

「欲しいよなぁ?マツタケ。あげると言われたら欲しいよな!?」

「…いや、悪いけど要らないよ」

危険な香りを察知した。

あの、胡散臭そうな乙無の顔。

そして、まるで押し付けるようにマツタケを激推してくる雛堂。

その雛堂が持つ、中身の見えない不自然に大きな紙袋。

これらの要因を考えるに、これは間違いなく、何か裏がある。に違いないと判断した。
< 466 / 645 >

この作品をシェア

pagetop