アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「何でだよっ?マツタケだぞ?一本ウン千円の高級食材だぞ!?欲しくないって言うのか!?」

「いや、そう言われても…。俺はマツタケなんて高級食材、食べたことないし…」

俺が食べたことあるのは、精々エリンギやシイタケくらいだよ。

良いじゃん。別にシイタケでも。普通に美味しいし。

無理して、そんな高級食材を買う必要はない。

それに…。

「うちの寿々花さん、キノコ苦手だから」

寿々花さんが喜ぶならまだしも、キノコ嫌いの寿々花さんは、マツタケじゃあ喜ばないから。

「ぐぬぬっ…!悠理兄さん、さすがにガードが硬い…!」

「ってか、あんたのことだから、どうせ本物のマツタケじゃないんだろ」

「ぎくっ!」

ほらな。言わんこっちゃない。

そんなことだろうと思った。

「な、何故それが…」

そりゃ分かるだろ。いくらなんでも。

乙無の胡散臭そうな顔。とてもマツタケが入ってるとは思えない、不自然に大きな紙袋…。

「それに、本当にマツタケがあるなら、人に食べさせずに自分で消費するだろ。どう考えても」

そんな高級食材、人生で一度二度食べる機会があるかどうか。

その貴重な機会を、どうして友人だからって、人に譲るものか。

たくさんあるならまだしも、まずは自分で食べるだろ。普通は。

ましてや雛堂の家は、下の兄弟がいっぱいいるんだから。

それなのにわざわざ、こんなに強く勧めてくるってことは…。

「どうせ紛い物なんだろ。…食品サンプルとか?」

「ぐぬぬっ。ちげーよ。いくら自分でも、食品サンプルを押し付ける訳ねーだろ!」

ふーん。違うのか。

「それにな、マツタケだけじゃないんだぞ!エリンギとマイタケ、ブナシメジまであるんだからな!どうだ、欲しくなってきただろ?」

確かに。マツタケと聞いても高級過ぎてピンと来ないけど。

スーパーで普通に売っているキノコの名前を聞くと、途端に夕飯の献立を考えてしまうのだから。

悲しき、貧乏主夫の定めである。

しかし、俺は騙されないぞ。

「それだって、本物じゃないんだろ」

「ぎくっ…」

ほらな。やっぱり。

そんなことだろうと思った。

付き合ってられるかよ。雛堂の茶番に。

「で、乙無。何なんだ?雛堂のアホは、俺達に何を押し付けようとしてるんだ」

「クッションですよ、悠理さん。リアルなキノコのクッションです」

ふーん、成程。

やけにデカい紙袋を持っている理由が、ようやく分かった。
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