アンハッピー・ウエディング〜後編〜
一万円だってよ。

馬鹿じゃねぇの?もっと良い使い方あるだろ。

キノコのクッションに使うくらいなら、コンビニの募金箱にでも入れてきた方が遥かに良かった。

お金の無駄遣いも甚だしい。

「今年初めての運試し!ってポップに書いてあってさぁ…。千円、五千円、一万円の3種類あったんだけど…」

せめて千円、いや、間を取って五千円の福袋にしておけば、まだダメージは少なかったものを。

何故、敢えて一番金額の高い福袋にしてしまったのか。

「気が大きくなってたんでしょうね。正月だからって浮かれて」

「うっ…」

乙無にズバリと指摘されて、言い返せない雛堂。

馬鹿だな。

正月だからこそ、周囲が浮かれムードだからこそ。

自分はしっかり、財布の紐を固く縛っておくべきなんだぞ。

それ、節約のコツな。

「一番袋デカかったし、ここはスケールも大きく行こう!と思って…」

それでキノコ掴まされてるんだから、世話ないよな。

まぁ、一万円の福袋に、しこたまリアルキノコクッションを詰め込む店員さんもどうかしてると思うが。

多分、売れ残りで在庫を圧迫しまくっていたクッションを、何とかして処分したかったんだと思う。

だからって一万円はねーわ。

ちなみに、千円と五千円の福袋の中身は何だったんだろうな。

もしかして、そっちもキノコクッション…?

それはもうお楽しみ福袋じゃなくて、キノコクッション福袋だ。

「畜生、何が『楽しい可愛い面白い雑貨がいっぱい!!』だよ。広告詐欺じゃねぇか!」

雛堂、ブチギレ。

気持ちは分かるが、でも嘘はついてないんじゃないか。

見た目のインパクトだけは強くて、面白いし。

可愛い…かどうかは不明。余程のキノコ趣味じゃない限りは。

「家に持って帰ったら、チビ共に気持ち悪いって泣かれるしさぁ!」

「そりゃ泣かれるわ。だって気持ち悪いもん」

キノコ好きな人、ごめんな。

デフォルメされたキノコのデザインならまだしも。

スベスベとしたキノコの質感と、独特の匂いまで漂ってきそうなリアルなデザイン。

そりゃ気持ち悪いわ。

しかも、無駄に巨大だから余計に。

「家に置いておけねーし、仕方ないから悠理兄さんも真珠兄さんに押し付け、いや、お裾分けしようと思ってさー」

おい。今押し付けるって言っただろ。

押し付けられて堪るかよ。

「俺だって要らねぇっつの」

「捨てれば良いんじゃないですか?」

俺も乙無も、キノコクッションなど要らなかった。

しかし。

「捨てたら勿体無いだろ!一万円もしたんだぞ!」

知らねーよ。そんなもん一万円も出して買ってきたあんたが馬鹿なんだろ。

でも…要らないからって、新品の、しかも一万円もしたものをゴミ箱に捨てるのは。

貧乏性の俺には、抵抗がある。

「フリマアプリで売ろうかとも思ったけど、このデカさじゃ送料だけでも大損だし、そもそも売れねーし」

買う奴がいないよな。そもそも。

「な?受け取ってくれよ。一個ずつで良いから。ほら、このエリンギを自分だと思って可愛がってくれよ」

…何言ってんだ?雛堂…。

雛堂とエリンギは似ても似つかんし、可愛くもねーよ。

美味しいのは認めるけどな。

「それにほら、悠理兄さん。兄さんは要らないかもしれないけど、無月院の姉さんは喜ぶかもしれないぞ」

あ?

寿々花さんだと?
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