アンハッピー・ウエディング〜後編〜
突然寿々花さんの名前を出されて、俺は少し心が揺れた。

「無月院の姉さんなら、キノコクッション欲しがるかもしれないだろ?」

「それは…」

…そういや、あの人、変な趣味してるもんな。

わざわざイタリアまで行って、ピサの斜塔の抱きまくら、買ってきてたりしてたもんなぁ…。

あの時買ってきた大容量のバルサミコ酢、ようやく半分くらい消費出来た。

まだまだ大量に残っていて、そろそろレパートリーに困ってるよ。

って、その話は今は良いとして。

「そんな訳で、はい、悠理兄さんにマイタケのクッション」

雛堂は強引に、俺にマイタケクッションをぼふっ、と押し付けてきた。

おい。何だこれ。やめろって。

「で、真珠兄さんにはマツタケな。邪神の眷属の名に恥じない、高級キノコだぞ!」

乙無にも同様に、マツタケクッションを押し付けていた。

「ちょっと。あなたは誉れある邪神の眷属を何だと思ってるんですか」

「誉れがあるから、マツタケあげてんだろ?」

「そういう問題じゃなくて。大体あなた達は軽々しく邪神の眷属の名を口にして、イングレア様の加護も受けぬ人間が、」

必死に邪神の眷属(?)論を訴える乙無は無視され。

雛堂は俺に、もう一つ、キノコクッションをぼふっと押し付けた。

「はい、これがポルチーニのクッション。これは自分から、無月院の姉さんへのプレゼントだ。ちゃんと渡してくれよ?」

「…」

デカいキノコクッションを、2個も渡されてしまった俺。

一体どうしたら良いのか。これ。

つーか、寿々花さんにプレゼント、って言うけど。

あの人、そもそもキノコ嫌いなんだけど?

寿々花さんに渡したは良いものの、「気持ち悪い…」って逃げられたらどうすんの?

その時は…。

その時は、このクッションを雛堂だと思って、大事に…押し入れに封印しておこう。

永遠にな。
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