アンハッピー・ウエディング〜後編〜
帰宅後。

俺は、無事にキノコクッションを家に持って帰った。

先生に見咎められなくて良かったよ。そのデカい荷物は何だ、って。

取り上げられたらどう…、もしないな。別に要らないから。

先生に没収されて、そのまま先生の私物になるのならそれでも良いが。

しかし、そのせいで反省文なんて目に遭ったら、一生雛堂のことを恨んでいたところだ。

その時は、もう雛堂を庇ったりしないからな。

「要らないって言ってるのに、雛堂君に無理矢理押し付けられて迷惑してました」って言ってやるつもりだった。

まぁ、その必要はなかったようだがな。

誰にも見咎められることなく、クラスメイトの密告を受けることもなく。

無事に、家まで持って帰ってきた。

…無事、なのか?これ。

家に帰って改めて、紙袋を開けてキノコクッションを取り出す。

…何回見ても気色悪い。

押し付けられるままに、もらって帰ってきてしまったけど。

どうすれば良いんだ?これ。マジで。

すると、そこに。

「悠理君。おかえりー。あのね、今日ねー。面白い課題が…」

「うわっ…びびったぁ…」

俺が帰ってきた気配を嗅ぎつけたらしく。

突然リビングに、寿々花さんがやって来た。

こんなものを見たら、寿々花さんだってびっくりするに決まってる。

俺は慌てて、キノコクッションを紙袋に入れて隠した。

「…?悠理君、今何か隠した?」

ぎくっ…。

…ぽやんとしてる癖して、意外と目敏いじゃないか。

って、俺が油断してただけか。

「べ、別に…。何でもねぇよ」

「そっかー。悠理君の隠し事…隠し物…はっ」

は?

寿々花さんは何を勘違いしたのか、何かに気づいたような顔でこちらを向いた。

「そうだ。男の子は、女の子には言えない内緒のものがあるんだって、前に夢で見たことがある」

…は?

「ううん、良いんだよ悠理君。私は気にしないから。私にも女の子の趣味はあるもん。悠理君にも、男の子の趣味が、」

「ちょっと待て。なんか誤解してないか?酷い誤解をしてないか!?」

「そんなことで気を遣ってたら、この先疲れるもんね。良いよ、悠理君。私のことは気にしないで、堂々と見っ、」

「気にするわ!」

無駄に寛容でびっくりするんだけど?

そこは、もうちょっと抵抗感を顕にしても良いんだぞ。

って、そういうのじゃないから。

「ちげーから!何を誤解してるのか知らないけど、そういうのじゃないから!雛堂からもらったんだよ!」

「…!お友達同士で貸し借り…?悠理君、いつの間にかすっかり上級者だ…!」 

マジで何を言ってるんだよ。

勘弁してくれ。マジで。

「あのな、違う。分かった、見せる。出すから。見てから判断してくれ」

「えっ。見ても良いの?私、女の子なのに?男の子の秘密、見せてくれるの?」

「言い方に気をつけろ。大したものじゃないけど、でもびっくりするかもしれない」

「大丈夫。悠理君がどんな秘密を隠してても、どんな性癖だったとしても、私は悠理君を軽蔑したりしないし、悠理君のことが大好きだよ」

謎の信頼感。

それはありがとうな。気持ちは凄く嬉しいけど。

でも、そういうのじゃねーから。
< 472 / 645 >

この作品をシェア

pagetop