アンハッピー・ウエディング〜後編〜
今朝からずっとこう。

起きて部屋を出るなり、寿々花さんが部屋の前で待ち構えててさ。

腰抜かすかと思ったよ。

今日はやけに早起きだな、また変な夢でも見たのか。それともやっぱり、一晩過ごして、あのクッションが気持ち悪かったのか?

尋ねてみたけど、無言でふるふると首を横に振るだけで。

俺がキッチンに入ると、寿々花さんも後ろからちょこちょこついてきた。

で、作業をする俺の後ろにくっついて、じーっと見ている。

無言で。

何なんだ?マジで一体何?

何か俺に言いたいことでもあるのか。文句でも?

寿々花さんが、唐突に不自然な行動を始めるのは珍しくないけれど。

今日はまた、一段と特別だぞ。

行動がもう。全く意味不明なんだもん。

つーか、やりづれぇ。後ろでじっと見られてると思ったら。

「…」

ちらっ、と後ろを振り返ってみると。

「じーっ…」

こちらをじっと見つめる寿々花さんと目が合って、俺は慌てて視線を逸らした。

いや、別に疚しいことは何もないから、見られてても困らないけど…。

でも、気になるものは気になるだろ。

何なんだ。なんか嫌なのか?気に入らないことでもあるのか。

今日のお弁当は卵焼きじゃなくて、ゆで卵が良いとか?

タコさんウインナーじゃなくてカニさんウインナーが良いとか?

それとも、冷凍食品を使って手抜きしようとしてるんじゃないか、と見張ってるのか?

別に、弁当に文句つけられるのは構わないよ。

でも、それならそうとはっきり言ってくれよ。

無言でじっと見られてると、どうにも居心地が悪くて。

「…なぁ、寿々花さん」

耐えられなくなって、俺は振り返って自分から声をかけた。

「じーっ…」

「…何?何か言いたいことでもあんの?」

ふるふる、と首を横に振る寿々花さん。

違うのか。言いたいことがあって訴えてきてるんじゃないのか。

「…卵焼きは嫌か?ゆで卵にする?それともスクランブルエッグとか?」

ふるふる。

違うらしい。

「…タコさんウインナーが嫌なのか?カニさんにしようか?」

ふるふる。

これも違うらしい。

「じゃあ…冷凍食品が嫌とか?」

ふるふる。

やっぱ違うそうだ。

なら…。

「じゃあ、逆に…弁当に入れて欲しいものでもあるのか?」

「…冷凍の…」

あ、口利いた…。

「占いの、グラタンがあったら入れて欲しいな…」

「あ、うん…分かった」

あんた、あれ好きだよな。

いつも買い置きしてあるから、じゃあ入れておくよ。

…で、それを言いたいから、そこで俺を監視するように待機してたのか?
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