アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…なぁ。

マジで、いくらなんでもおかしくないか?

結局その日も、寿々花さんは俺がお弁当を作るのを、じーっと見張り。

俺が顔を洗いに行くにも、洗濯機を回して洗濯物を干すのも、皿洗いをするのも。

郵便ポストに新聞を取りに行くのも、ゴミ出しに行くのも。

とにかく俺が何をするにも、背後にぴったりとくっついて。

それどころか、「ここかな…」「やっぱりこっちの方が良いかな…」などと不思議なことを言いながら。

俺の背中や襟元を、ぺたぺたと触ってきた。

何?何なの?

触ったり撫でたり、散々ぺたぺたしてきたかと思えば。

昨日のように、またしても、俺のやることなすこと…俺の一挙手一投足をつぶさに監視していた。

学校に行くのも、ずっとついてきてたよ。

しかし、いくら一緒に来ようとしても、さすがに新校舎の校門の前でお別れだ。

俺はここから、男子部のある旧校舎に向かわなきゃいけないからな。

はぁ。やっと監視の目から逃れられる。

「ここまでだぞ、寿々花さん。あんたの教室は新校舎だろ」

やっと、ゼロ距離監視してくる寿々花さんと離れられる、と。

心から安堵しながら、俺はそう言った。

が、寿々花さんはそれが不満なようで。

「むー…。私も旧校舎だったら良かったのに…」

恨みがましそうに、新校舎を睨みつけていた。

何言ってんだ。あんた女子だろ。

男の巣窟である旧校舎に来るなんて、危険にも程がある。

大体、新校舎の最新鋭の設備に慣れた女子部の生徒が、旧校舎なんかに来たら。

一日も身体、持たないと思うぞ。

まず、ろくに暖房も効いてないからな。

窓も階段も、ちょっと風が吹くだけでガタピシ言ってるし。

やめとけ、やめとけ。お嬢様の生活する場所じゃない。

すると、諦めきれないらしい寿々花さんが。

「はっ!良いこと思いついた」

と、言い出した。

「良いこと?…何だよ」

「私が旧校舎に行くんじゃなくて、逆にすれば良いんだよ。悠理君が女の子の格好をして新校舎に来れば。そうすればずっと観察していられ、」

「アホなこと言ってないで、はよ自分の教室に行け!」

「ほぇー」

ほぇー、じゃないんだよ。

俺なら女装してもバレないだろうって?冗談じゃない。

無理矢理、半ば強引に、寿々花さんを新校舎の校門に押し込み。

俺は、逃げるようにそそくさと旧校舎に向かった。

はぁ。危ないところだった。

危うく、寿々花さんが男装して旧校舎に…どころか。

またしても俺が女装して、新校舎の生徒に成りすまされるところだった。

冗談じゃないからな。マジで。
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