アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「あーね。はいはい。悠理兄さんが深刻そうな顔をする時って、いっつも無月院の姉さんが関係してるもんなー」

「いつもそうですよ、悠理さんは」

おい。あんたら何を勝手なことを。

「べ、別に…寿々花さん絡みじゃなくても、俺だって落ち込む時くらいあるっての」

「ほーん?じゃあ、試しに聞いてやろうじゃないの。今日は何に悩んでたんだ?」

「…えっと、寿々花さんのこと…」

…悔しかったけど、嘘をつく訳にはいかなかった。

雛堂の、この「ほら、言わんこっちゃない」みたいな顔。

めっちゃ腹立つんだけど。

「悪かったな。どうせ俺の悩み事の原因は、いつも寿々花さんだよ」

「まぁまぁ、逆ギレすんなって。どうしたよ?喧嘩でもしたのか?」

「いや、そんなことは…」

喧嘩ではないよ。決して。

「はーん、成程、はいはい…そういうことね」

うんうん、と雛堂は勝手に何かを納得して頷いていた。

何が「そういうこと」なんだ?

「大丈夫だ、悠理兄さん。別に恥ずかしがることじゃない」

「…何が?何の話だ?」

「惚けんなって。男の子なら誰でも普通のことだから。エロ本バレたくらいで落ち込、」

「ちげーよ。何の話をしてんだよ、この馬鹿!」

「あでっ!」

ベシッ、と雛堂の後頭部をはたいておいた。

「…この俗物共めが」

乙無が、まるで吐瀉物でも見るかのような目で呟いた。

ちょっと待て。俺を含めるな。

雛堂が勝手に言ってるだけで、俺は無罪だ。

「え?何?エロ本バレて喧嘩したんじゃねーの?」

「違うわ。この馬鹿、何でそんな頭悪い発想になるんだ」

「なーんだ、違うのかよ。つまんねー」

「…」

なぁ、マジでこいつ、この俗物さ。

そこら辺の海に捨ててこようぜ。

「じゃあ、何で落ち込んでんの?」

「余計なお世話だ。…と言いたいところだけど、実は寿々花さんの様子がおかしくてな…」

様子がおかしいって言うか…。

…ストーカーみたいなことをやってる。

家庭内ストーカー。

「ふーん。やっぱり無月院の姉さん絡みなんじゃないか」

「うるせぇ」

「でも、別に心配することないんじゃね?女子ならそういうこともあんだろ」

は?何で女子?

「ほら、アレだよアレ。多分生理、」

もう一回、後頭部引っ叩いておいた。

何を言い出してんだあんたは。この馬鹿。俗物め。

「乙無。悪いんだけどこいつ、その辺の海に捨ててきてくれないか」

「嫌ですよ、触りたくない。それに海が汚れます」

「そうか…。そうだな…」

確かに、乙無の言う通りだ。

ゴミを海に不法投棄したら駄目だぞ。美しい、綺麗な海が汚れてしまうからな。

ましてや、今の雛堂みたいな汚物を捨てて海を汚したら、地球の皆様に申し訳が立たない。

仕方ない。俺達で責任を持って…。

「捨てるか…」

ゴミは自分達で、責任持って処理しましょう、ってね。

「ちょ、悠理兄さん!?怖いこと言わないでくれって。冗談、いや冗談でもないけど。冗談だって!」

「乙無、触りたくないのは分かるが、反対側を持ってくれ。俺も運ぶから。…焼却炉に」

「仕方ないですね。しかし、それが世界の真なる平等という、邪神イングレア様の理念に繋がるなら…」

「ちょ…。助けてー!燃やそうとしないでー!」

うるせぇ。

一回燃やされでもしないと、あんたの中の煩悩は消えないだろうが。
< 485 / 645 >

この作品をシェア

pagetop