アンハッピー・ウエディング〜後編〜
雛堂があんまり喚いて、燃やさないでとうるさいので。

それに何より、その大事なタイミングで。

雛堂を助けるかのように、授業開始のチャイムが鳴って、先生が教室に入ってきたので。

焼却炉は、勘弁してやったよ。

ちっ。惜しいところだった。

…で、話の続きが始まったのは昼休み。




「…ったく、朝は酷い目に遭ったぜ」

ぶつぶつと文句を言いながら。

雛堂は今日も、スーパーで買ってきた惣菜パンの袋をバリッ、と開けた。

「見てこれ。塩焼きそば明太子パスタパンだってよ。美味そうだろ?」

「…主食が行方不明になってるな…」

そばなのか。パスタなのか。パンなのか?

珍しいパンが売ってるもんだ。で、雛堂はよくそんな珍しいパンを、いつも、わざわざ選んで買ってくるもんだ。

「…はぁ…」

…雛堂の今日の昼食のことなんて、どうでも良いんだよ。

俺は後ろを振り向いて、きょろきょろと視線を動かした。

…大丈夫…だよな?

昼休みだからって…さすがに…。

「どうしたんですか、悠理さん」

俺の挙動がおかしいことに気づいて、乙無が声をかけてきた。

「まさか、忌々しい聖神ルデスの巫女でも見つけましたか」

「いる訳ねーだろ、そんなもん」

「いますよ。奴らは自らが聖神ルデスの駒である自覚もなく、卑しくもイングレア様の偉大なる理念の邪魔を…」

「いる訳ねーだろ、そんなもん…」

「なっ…!聞き捨てなりませんね!」

そんなこと、今の俺にとってはどうでも良いんだっての。

それより…。

きょろきょろ、と周囲を見渡す。

…よし、いないな。

「良いですか、悠理さん。人の世の不平等によって涙する時初めて、イングレア様のお力を強く感じるものなのです。そう、かつて僕も人間だった時に…」

「うめー。何だこのパン。めっちゃ美味いぞ」

もぐもぐ、と主食いっぱいのパンを齧る雛堂。

雛堂も、乙無の話聞いてない。実は俺も聞いてない。

「それ、美味いのか…?主食、行方不明になってるけど…」

「パンの上に、塩焼きそばと明太子パスタが乗ってるみてーな味がする」

そりゃそういうパンだからな。

「…はぁ。所詮人の形をした獣に、神の使いたる僕の言葉は通じませんか…」

やれやれ嘆かわしい、とばかりに乙無が溜め息をついていた。

俺達どころか、このクラスの誰にも通じないと思うぞ。

乙無の中二病は、今年も絶好調だな。

あと3ヶ月くらいで高二になるんだから、いい加減中二病は卒業しろよ。

「…で、朝の話の続きだけどさ」

と、雛堂がパンを齧りながら言った。

「真面目な話、今日どうしたのさ。悠理兄さん、さっきから挙動不審になって、きょろきょろしてるしさ」

「…それは…」

…深刻な悩みなんだよ。一応な。
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