アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「何?自分らには言えないようなこと?」

「いや…。…言うけど、でも茶化すなよ?」

「失礼だなー。親友が悩みを相談してんのに、自分が一度でも茶化したことあるか?」

今朝、2回くらい茶化してたけど。

あれはノーカウントってことでOK?

…とにかく。

俺にはもう、寿々花さんが何をやりたいのかさっぱり分からないからさ。

この二人に助言を乞うとしよう。

「実は、その…この2日くらいのことなんだけど」

「うんうん」

「寿々花さんが…めっちゃ見てくるんだ」

「…」

「…」

これには、雛堂もパンを食べる手を止めて硬直。

乙無の方も、珍しく黙ってしまった。

…あっ、ごめん。

俺の言い方が悪かった。よな?

「…何?なんか意味分かんねぇんだけど、どういう意味?」

「言葉通りの意味ですか?」

「あぁ…。言葉通りの意味だ。家庭内ストーカーと化してる」

とにかく、何処に行くにもついてくるんだよ。

朝起きてから寝るまで、いや、何ならもしかしたら、寝ている間も…。

玄関先で俺を待ち構えているわ、料理中も背後にくっついてるわ。

風呂に入ろうとした時も、諦めずに脱衣場に忍び込もうとしたり。

鍵を閉めても諦めず、風呂場の窓に貼り付いていたのを見た時は、危うく腰を抜かすところだった。

ということを、俺は雛堂と乙無に説明した。

すると。

「マジかよ…。…何がしたいんだろうな?無月院の姉さん…」

これには、雛堂も真面目にドン引き。

雛堂をドン引きさせるって、これは相当凄いことだぞ。

雛堂は、いつも他人をドン引きさせる側だからな。

「真面目な話、欲求不満なんじゃないんですか?」

と、乙無。

「は?」

「悠理さんに、もっと構って欲しいとか」

「…あー…」

成程。その可能性はある…のか?

物心ついたばかりの子供が、親の後追いをするのと同じ原理。

良くも悪くも、頭の中子供だからな。あの人…。それは有り得るかも。

…有り得るのか?

「って言っても、構って欲しい割には、声をかけてもあんまり反応しないんだよな…。ずっとクリップボードに何か書いてて…」

「…クリップボード?」

あ、そうだ。このこと言うの忘れてた。

「ずっと鉛筆とクリップボードを持ってるんだよ。で、俺を眺めながら…なんか書いてるんだ」

「何だ?それ。悠理兄さんのスケッチでもしてんの?」

え、そういうこと?

俺を追いかけ回して何か書いてるんだから、俺に関することだろうとは思うけど。

スケッチしてんの?

いや、でもわざわざ俺を追いかけ回さなくても。

普段から、お絵描き遊びをする度に、勝手に俺の似顔絵描いてんじゃん。

「…違う、駄目だ。やっぱり分からない」

「観察日記でもつけてるんですかね。悠理さんの…」

小学生が、夏休みの宿題にアサガオの観察日記をつけるような感じ?

まさか。

植物なら、毎日ちょっとずつ変化があるから、観察していても楽しいだろうけど。

全く代わり映えのない日々を送る俺を観察して、何が楽しいことがあろうか。

ないない。

「それ、もういっそ本人に聞けよ。何やってんの、って」

「…やっぱりその方が良いよな?」

「力になれなくて悪いけどさ、自分らには、正直お手上げだわ。全く意味分からん」

「あぁ…」

俺も、その方が良いんじゃないかと思ってきたところだよ。
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