アンハッピー・ウエディング〜後編〜
今日だけで、来客3人目。

多くね?

どんだけ人来るんだよ。

また雛堂が?それとも、円城寺がまた嫌味を言いに戻ってきたのか?

それとも、また別の第三者か?

いずれにしても、今日はもう来客多くてお腹いっぱいなんだが。

居留守…使っても良いんじゃねぇの。なぁ? 

このまま息を潜めて、留守を決め込もう。

…しかし。

「…悠理君、出なくて良いの?」

「…やっぱ出なきゃ駄目だと思うか?」

「灯りついてるし、エアコンもつけてるから、居留守してるの分かるんじゃないかなぁ」

「…そうか」

寿々花さん、あんた鋭いな。

居留守は…無理か。
 
…出るしかないってことだなぁ。

分かったよ。出るよ。

ただし、円城寺だったらそのまますぐ閉めるからな。そしてもう二度と開けない。

セールスと円城寺お断り、ってシール玄関に貼っとこうかな。

「ったく、どちら様だ?」

我ながら、不機嫌を隠そうともせずに横柄な態度で応対してしまった。

相手が円城寺だと思うと、自然と横柄な態度にもなる。

…しかし、それは大きな間違いだった。

「ごきげんよう」

この、身分の高い人限定の挨拶。

一瞬、やっぱり円城寺か、と思ったが…声の主は男ではなく、女だった。

誰かと思って、よくよく見てみると。

「…?」

高貴だけど、物腰柔らかな雰囲気。堂々とした立ち居振る舞い。

小花衣先輩に似ているけれど、その凛とした佇まいは、小花衣先輩よりも更に気品があった。

お嬢様揃いの聖青薔薇学園に半年近くいて、それなりに身分の高いお嬢様を見慣れてきたつもりだったが。

目の前にいるこの女性は、そんなお嬢様達の中でも群を抜いていた。

背中に…この人の背中に、スポットライトの光でも当たってんじゃないかなって。

それくらい目立つ。

思わず、俺はまじまじとその人の顔を見つめてしまったが。

何だか畏れ多いような気がして、自然にスーッと目を逸らしてしまった。

…いや、この方が失礼なのでは?

ってか、この人、誰?

何処かで見覚えがある…ような。ない…ような。

…やっぱりある。

「えぇっと…あの…」

しどろもどろになって、言葉が出てこなかった。

如何せん、俺は相手が円城寺だと思っていたものだから。

予想外の人物がやって来て、対応に困っていると。

「あなたが、星見悠理さん?」

涼やかな声で、その人は俺に尋ねた。

えっ…俺の名前知ってんの?
 
「そ…そうですけど、えっと…どちら様?」

「私は無月院椿姫。無月院寿々花の姉です」

突然訪ねてきたその女性は、そう自己紹介した。
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