アンハッピー・ウエディング〜後編〜
見たか。やってやったぜ。

それを見た寿々花さんは、さっと顔を青くして叫んだ。

「あぁっ!悠理君、なんて酷いことを…!」

そうだな。お高いものだろうに、勝手に壊してごめんな?

でも、謝るべきは俺じゃねーから。どう考えても俺は被害者。

盗撮の被害者だよ、畜生。

「酷いことしてんのはあんただ!」

「あ痛っ!」

ベシッ、と寿々花さんの後頭部をはたいた。

え?暴力を振るうなんて最低?

俺は盗撮、盗聴をされてたんだぞ。一晩中。一昼夜の間ずっと。

それに比べたら、頭をはたくくらいのことが何だって言うんだ?

しかし。

「悠理君がぶった…」

「は?」

「悠理君がぶった〜…」

半泣きの寿々花さん。

…なんか、俺が一方的に悪者にされてる気がする。

「わ、分かった。カッとなった俺が悪かったよ。ごめん、謝るから」

よしよし、とさっきはたいたばかりの頭を撫でてやった。

「頭に蚊が止まったくらい痛かった」

全然ノーダメージじゃねぇかよ。この石頭。

何で俺が悪者になってるんですか?

おかしいだろ。どう考えても、悪いのは…。

「この家庭内変態ストーカーめ。何を考えてるんだよ…!?」

「悠理君の大事なデータが~…。まだバックアップ取ってなかったのにー」

良かった。バックアップなんか取られたら、俺にはもうどうすることも出来なかった。

俺に盗聴器とカメラを渡した、自分の迂闊さを責めるんだな。

「何でこんな酷いことするの?悠理君は優しい人だと思ってたのに…」

「ちょっと待て。勝手に被害者面をするな。被害者は俺だ」

強引に、俺が悪いみたいな雰囲気に持っていこうとするんじゃねぇ。

卑怯だぞ。

「何でこんな酷いことするの、はこっちの台詞だ。寿々花さんは頭が良いから、知ってると思ったんだけどな」

「ほぇ?」

「盗撮、盗聴って、犯罪なんだぞ」

「家庭内だったら、基本的には大丈夫だよ。公共の場所だったら問題だけど」

そうなんだ。それは知らなかった。

やっぱり寿々花さんの方が頭良いんだな。一応、取り締まられてもグレーにならないギリギリの域を、

…って、そういう問題ではない。

法律的にセーフでも、倫理的にアウトだからな。

それで俺が許すと思ったら、大きな間違いだぞ。

「寿々花さん、その場に着席。座れ」

「ふぇ?何で?」

「良いから座れ」

「うん、分かったー」

寿々花さんは、素直にその場に座った。

何故か体育座り。

正座しろって意味だったんだけど?何で体育座り?

さては、自分がこれから説教されると分かっていないようだな?

…あぁ、もう良い。座り方なんてどうでも。

この非常識ストーカーお嬢様に、適切な倫理観というものを教えなければ。
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