アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「よし、取り調べを始めるぞ。まず犯行の動機を説明してもらおうか」

「わー。悠理君、何だか裁判官みたいだー」

「ま、じ、め、に言え!」

「ふにゃー。いひゃい〜」

俺は、寿々花さんのほっぺたをむに〜っと摘んで言った。

良いか、俺は真面目に聞いてるんだぞ。

あんたも真面目に答えろ。

「何で盗撮なんかした?何がしたかったんだ?」

「だから…学校の宿題だよ。生物の課題…」

何だと?

新校舎の教師が、無理難題みたいな課題を押し付けてくるのは知ってるよ。

俺達だって、寿々花さんが修学旅行に行ってる間に、散々な目に遭わされたからな。

でも、今度は何だって言うんだ。

俺の…人間の生態について調べろ、という課題でも出たのか?

「ちょっと、それ見せてみろ」

「あ。門外不出の研究資料がー」

うるせぇ。何が研究資料だ。

俺は、昨日から寿々花さんが大事そうに抱えていたクリップボードを奪い取った。

そこには、寿々花さんが観察した、俺の一日の行動が事細かく書き記してあった。

○月○日、朝何時何分起床。

何時何分、お弁当作り開始。

何時何分、洗濯を始める。などなど。

そんな項目がずらっと、昨日から、クリップボードの用紙何枚分も。

思わず目眩がしそうだった。

乙無。あんたの推測は間違ってなかった。

マジで、俺の観察日記をつけていたとは。しかも、こんなに事細かく。

しかもこの記録、深夜の項目も混じってんだけど。

俺が寝てる間の時刻だぞ。

「深夜何時何分、寝言を呟く」って書いてある。

余計なお世話だ。そんなことまで記録するんじゃねぇ。

そうか。よーく分かった。痛いほどにな。

あんたは生粋の、変態家庭内ストーカーだ。

「よし、寿々花さん。分かった」

「…?何が?」

「一緒に病院に行こう。大丈夫だ、俺も付き合ってやるから。一緒に治療して乗り越え、」

「病気じゃないよぅ。宿題なんだよー」

ほう、宿題。

…言い訳はそれだけか?

「何処の世界に、同居人にストーカーせよという宿題を出す教師がいるんだ?」

「ストーカーじゃないよ。悠理君を観察してただけだよ…。…四六時中」

それをストーカーって言うんだよ。

無自覚なのかよ。こっわ。

「ストーカーじゃないなら、一体何の宿題なんだ?」

「あのね、自由研究なの」

「…自由研究?」

って、小学校や中学校の夏休みの宿題でよく出る、あれ?

あの宿題本当困るよな。毎年テーマ決めるのに難儀してたよ。

高校生になってまで出るの?

「生物の自由研究。何でも良いから、自分の好きな生物について調べて、レポートにまとめる課題なの」

という寿々花さんの説明で、ようやく理解した。

成程、そういうことだったか。

ほらな。やっぱり、同居人をストーカーせよ、という宿題じゃない。

俺は一体、何の為に盗聴器や小型カメラまで設置されて、四六時中監視され続けたんだ?
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