アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ふーん。そんな課題がな…。

高校生にもなって自由研究とは。

まぁ、新校舎の教師と言えば。

唐突に20キロ走らせたり、カルチョーフィなる謎の食材を使わせて調理実習させたり。

鬱になりそうな悲しい戦争映画を見せて、討論会をしろという課題を出してくる教師連中だからな。

今更どんな課題が出ても、驚きはしない。

驚きはしないけど…しかし、自由研究とは…。

…夏休みじゃないんだから。

もっと他になかったのか?テキストの予習とか、問題集を解いてくる、だけで良いじゃん。

生徒の創造性と自主性をうんたらかんたら、って奴か?

けっ、面倒くさっ。

大体、俺はそのせいでストーカー被害に遭ったんだぞ。

他人事ではいられない。

「…事情は、分かった」

「そっか。ありがとー。じゃあもう一回カメラを、」

「ちょっと待て。違う」

事情を理解しただけだ。

ストーカー行為を許可した訳じゃない。

「え、駄目なの?」

「駄目に決まってるだろ」

「えー」

えーじゃない。

「そもそもあんた、そこまでして俺の観察をして…」

「ふぇ?」

「どんなテーマのレポートにするつもりだったんだ?」

人間の一日の生活を観察して、そこからその人の性格や行動原理みたいなのを推測して、みたいな?

頭良いからな、寿々花さん。

きっと、俺には想像もつかないような、高尚な研究テーマを、

「悠理君の毎日の行動を一つずつ全部書いて、悠理君の観察日記っていうテーマのレポートにするつもりだったの」

そんなことはなかった。

まんまじゃねーかよ。まんま俺の観察日記?

それが学年1、いや学校1の秀才の自由研究か?

小学生のアサガオ観察日記レベルじゃないか。

そんなレポートを読まされる、生物の先生の身にもなってみろ。

そして、そんなレポートの研究対象にされる、俺の身になってみろ。

「もっと他にあるだろ。何でわざわざ俺なんだ?」

生物なら何でも良いんだろ?

犬でも、猫でも、植物でも。

小花衣先輩とか、絶対に植物についてレポート書いてそう。

無限に研究テーマはあるはずなのに、何故敢えて俺なのか。

すると寿々花さんは、きょとんとして。

「ふぇ?だって、好きな生き物についてレポートを書きなさい、って言われたから」

「…」

「私の一番好きなのは悠理君だから。だから悠理君について書こーって思って」

…好きな生き物って、そういう意味じゃねーよ。

「はぁ…」

俺は、大きな溜め息をついた。

理由は分かった。事情も分かった。

かと言ってストーカー行為を許すつもりはないが。

寿々花さんに悪意はない、むしろ真面目に課題に取り組もうとしていたんだってことは、素直に評価するよ。

ただ、その情熱を、何故他のことに活かせなかったのか、とは思うけどな。

きっと、さぞや素晴らしいレポートになっただろうに…。
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