アンハッピー・ウエディング〜後編〜
え?鬼?

そこは許すところだろう、って?

ふざけんな。

じゃあ、あんたが丸一日小型カメラを仕掛けられて、盗聴器までつけられて。

家の中でも、四六時中付き纏われて観察記録をつけられてみろよ。

ノイローゼになるぞ。

それだけでも不快感マックスなのに、ましてやそれを文章に起こして。

20枚分のレポートにされ、生物の先生に見られるんだぞ?

自分の一日の活動記録、言動の全て。

寝返りを打った回数から、授業中にあくびをした回数まで。全部だぞ。

冗談じゃない。

そんなレポートを、この世に誕生させてたまるか。

それで寿々花さんがレポートを提出出来なくても、それは俺の知ったことではない。

己の愚かさを恨んでくれ。

「そ、そんな…。悠理君なら許してくれると思ったのに…」

絶望の表情になる寿々花さん。

そうか。信頼してくれてたんだな。ありがとう。

でも、なんか買い被ってたみたいだけど、俺はこんなもんだぞ。

「いくら俺でも、許せることと許せないことってもんがあるからな」

菩薩とか仏の類じゃないんで。俺。

嫌なことは嫌だし、駄目なものは駄目って言うぞ。普通に。

悪かったな。

「それじゃ…レポート、どうしよう…」

「…」

「来週が提出期限なのに…。今からテーマを変えるなんて…」

「…」

…意識的なのか無意識なのか知らないけど。

俺の罪悪感を煽ってくるの、やめてくれないか?

俺のせいじゃないから。いや、寿々花さんの当初の予定を崩したのは俺のせいだけど。

しかし、寿々花さんがレポートを完成させられなかったら、それは俺にも責任がある…ってことになる。

俺が邪魔したんだから。まぁ不可抗力というものだが。

だから…。

「テーマを変えるなら、俺に出来ること、何でも協力するよ」

ここは、俺が一肌脱ぐことにしよう。

寿々花さんの当初のレポート計画を白紙にした、その責任は取らないとな。

それに何より、寿々花さんが落ちこんでる姿は見たくない。

それが理由。一番の動機だ。

「…!悠理君、協力してくれるの?」

「あぁ。良いよ」

盗撮や盗聴には協力出来ないけど。

それ以外の、犯罪以外の協力なら何でもするよ。

幸い、今のところ男子部では、どの科目でも宿題は出てないし。

時間ならある。

「悠理君…。悠理君はやっぱり優しかった…」

「そ、そんな大袈裟な…。それより、早く新しいテーマを決めてくれ」

呑気にしてる時間はないからな。

急いで新しいテーマを決めて、その為に資料を集め、

「じゃあ、そうだな…。悠理君の人生遍歴、ってテーマで」

「ふざけんな。いい加減俺から離れろ」

そういう意味で言ってんじゃねーよ。

「何でいちいち俺なんだよ?他にもっとあるだろ」

「だって、好きな生き物について書くように言われたから…。私の一番好きな人って言ったら、悠理君なんだもん」

寿々花さんの中で俺って、「生き物」扱いなの?

違うんだよ、寿々花さん。確かに人間も生き物だけど、生物科目のテーマにするにはもっと…。

よし、こうなったらテーマは俺が決めてやる。
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