アンハッピー・ウエディング〜後編〜
迎えた週末。

今日は生憎、大晦日の時を彷彿とさせる、特別に寒い日だった。

雪でも降りそうな、重く分厚い灰色の雲が空を覆っている。

テンション上がらない天気だなぁ。

こんな日は家にこもって、コタツでみかんでも食べながらゆっくり過ごしたいものだ。

が、そういう訳にはいかない。

今週中に寿々花さんの生物の課題レポートを仕上げなくては、提出日に間に合わない。

今となっては最早、あのレポート課題は寿々花さんのものだけではない。

俺の課題でもあるのだ。

…何でこうなったんだろうな?もう意味分かんねぇよ。

考えまい。考えたら負けだ。

それなのに、寿々花さんと来たら呑気なもので。

「悠理君とー♪お出掛けー♪」

嬉しそうに、自作の歌を口ずさんでいらっしゃる。

お出掛けって言っても、行き先、キノコ博物館だからな?

全然楽しそうに思えない。

「悠理くーん。支度出来たよ、行こー」

「おぉ。じゃあ出発…って、何でそのコート着てんだよあんたは」

「ふぇ?」

あろうことか寿々花さんは、また「女番長」コートを着用していた。

まだ持ってたのかそれ。正月に新しいコート、買いに行っただろうが。そっちを着ろよ。

気に入ってるのか。まさかそれ気に入ってるのか?

でも、俺は女番長の隣を歩くのは嫌だからな。

「着替えてこい。新しい方に」

「やっぱり?どっちにしようかなーと思ったんだけど、折角悠理君が選んでくれたコート、着るの勿体なくて」

着ない方が勿体ないだろ。

「でも悠理君がそう言うなら、着替えてくるー」

はい、行ってらっしゃい。

着替えて戻ってきた寿々花さんは、この間俺が選んだ、可愛らしいリボン付きのコートだった。

うん、やっぱりそっちの方が良いって。

「どう?悠理君。似合う?」

「あぁ…似合ってるよ」

さっきの女番長より、そっちの方がずっと良いって。

つーか、あの女番長コートはもう捨てなさい。

「やったー。悠理君に可愛いって言われちゃったー」

くるくるして喜んでいらっしゃる。

喜んでるところ悪いけど、似合うとは言ったが、可愛いとは言ってない。

そりゃ可愛いかと聞かれたら、可愛いけども。

ったく、相変わらず幼稚園児みたいな…。

ちゃんと引率しないとな。責任持って。

「ほら。電車、乗り遅れるぞ。早く行くぞ」

「うん。いってきまーす」

はいはい、行ってきます。
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