アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「悠理君。キノコのキーホルダー買っていこー」

寿々花さん、リアルキノコキーホルダーに興味津々。

はいはい、分かりました。

もう、この「見聞広がるワールド」の関連施設に来たら。

お土産にこのキーホルダーを買っていくのが、恒例みたいになってるな。

どれどれ…。

「これまた…色々あるなぁ…」

勿論、キノコ博物館に展示してあるキノコのキーホルダーである。

マツタケとかエリンギとか、まともそうなキノコのキーホルダーもあるけど…。

コレラタケとかワライタケとか、それこそベニテングダケなどの毒キノコや。

オニイグチやオオシャグマタケなどの、見た目がグロテスクなキノコもある。

何でこんな気持ち悪いキノコまで、キーホルダーにしたんだ?

やめろよ。誰も買わねーっての。

「寿々花さんは、どれにするんだ?」

「私、これが良い」

と言って寿々花さんが選んだのは、アイタケのキーホルダー。

アイタケって覚えてるか?寿々花さんの好きな、緑色のキノコだよ。

好きな色だからな。気になったのだろう。

「悠理君も買っていくでしょ?」

「そうだな…。俺はどうしようかな…。…それじゃ、綺麗そうだし、このツキヨタケ、」

「イボテングタケにしよーっと」

おい待て。何で勝手に選ぶんだ。

しかも、それ毒キノコじゃん。

「買ってくるねー」

「あ、ちょっ…。まっ…」

俺の咄嗟の制止も虚しく。

寿々花さんは、選んだお土産をさっさとレジに持っていき。

「うーんと。今日は現金で払うよ。お札が一枚、二枚…それから小銭を出してー…」

クレジットカードで一括決済ではなく、ちゃんと現金を自分で数えて支払っていた。

偉い、偉いぞ。

お金の計算、段々出来るようになってきたじゃないか。

子供銀行のお金で、一緒に練習した甲斐があったな。

だが、俺に商品の選択権を残しておいてくれたら、もっと良かったんだけどな。

「悠理君、お会計自分で出来たよー」

会計を終えた寿々花さんは、褒めて褒めて、と言わんばかりに駆け寄ってきた。

「取ってこい」された子犬が、飼い主のもとに戻ってきたみたいだな。

何で俺のお土産、勝手に毒キノコにしたんだよ、と責めたいところだったが。

こんな純粋な、無邪気な顔をされたら。

とても叱ることなんて出来ない。

…どころか…。

「はいはい…。よく出来たな、偉かったよ」

「えへへ。悠理君に褒められちゃったー」

むしろ褒めてるんだから、俺も大概甘いよ。

「はいっ、これ、悠理君のキーホルダー」

そして、手渡されるイボテングタケのキーホルダー。

「…どうも…」

全然嬉しくないんだけど。どうしよう?これ。

…仕方ない。

爬虫類の館で買ったキングコブラキーホルダーも、深海魚水族館でもらったグソクムシキーホルダーも。

机の引き出しの中に、永久封印とばかりにしまってあるからな。

このイボテングタケキーホルダーも、封印の仲間入りだ。
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