アンハッピー・ウエディング〜後編〜
寿々花さんはレポート執筆の為に、自分の部屋にこもってしまった。

部屋の前を通ると、カタカタとパソコンのキーボードを打つ音が聞こえてきた。

すげー…。パソコンでレポートを…。マジで大学生の研究みたいだな。

邪魔しちゃいけないと思って、俺も音を立てないよう、リビングでじっとして過ごした。

しかし、気になるものは気になる。

何度も時計を確認して、レポート課題の進捗状況を予想した。

…どうだろう。そろそろ、2〜3ページくらいは書き終わっただろうか?

最初の2〜3ページは、むしろまだ楽なんだよな。

俺も、寿々花さん達が修学旅行に行っている間、悲しい戦争映画の感想文を書かされたことがある。

あの時も思ったけど。

最初の2〜3ページは、まだ書くことがあるから、良いんだよ。

本当にキツいのは、書きたいことを書き尽くした4〜5ページ目辺り。

あの辺からめっちゃキツかった記憶。

あの時の俺達は、たかが5枚分の原稿用紙でヒーヒー言ってたもんだが。

あれくらい可愛いもんだったんだな。今思えば。

今寿々花さんがやってる、あのレポート課題に比べたら。

あんなのやらされたら、俺達、レポート書き終わるまで教室に何連泊しなきゃならないことか。

無理無理。絶対無理。

乙無なら何とかしそうだけど。俺には無理だよ。

それを思うと…寿々花さんって…いや、女子部の生徒って凄いんだな…。

英才教育、ならぬお嬢様教育は伊達じゃない。

「…」

…ちらり、と俺は時計を見上げた。

時刻は、既に夜。

寿々花さんは夕食も食べずに、ずーっと部屋にこもりきりである。

…大丈夫かな…?

夕飯…一応作ってあるんだけど、食べるだろうか。

降りておいで、って言うべき?

熱中してるんだろうか?食事を忘れるほどに?

あんまり根を詰め過ぎても良くないと思うんだが。

それとも持っていこうか?片手で食べられそうな…おにぎりとかサンドイッチを作って。

あぁ、でも、それもどうなんだろう。

熱中して書いてるのに、俺が途中で部屋に入ってきたら、どう考えても邪魔だよな?

今順調に書いてるところだったのに、俺が来たせいで気が散った…なんて言われたら。

申し訳なくて、その場に土下座したくなる。

やっぱり、寿々花さんが自ら降りてくるまで待っているべきか…。

「…うーん…」

…気になる。

様子を見に行きたいが、邪魔をしても悪いし。

…仕方ない。

寿々花さんが自分から降りてくるまで、俺はリビングに待機していることにしよう。
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