アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…と、思ったのだが。

「…ん…」

眩しさに目を細めて、俺はゆっくりと目を開いた。

…あ、やべ。

…寝てた。

アホなのか俺は。寿々花さんを待っているつもりが、リビングで眠りこけるなんて。

俺は急いで、ガバっと起き上がった。

寿々花さん、寿々花さんは?

リビングを見渡すも、相変わらず寿々花さんの姿はない。

時計を見上げると、午前7時になる少し前。

寝過ぎだろ、馬鹿か俺。夜明けてんじゃん。

寿々花さんは大丈夫か?あれから、少しくらい休憩したんだろうか。

夕食…食べてないよな?朝飯は食べるかな…?

いくら熱中してレポートを書いているにせよ、夕食抜き、朝食抜きはやめた方が良い。

俺が寝てる間に、多分、寿々花さんも少しは睡眠取ってると思うけど…。

俺は急いでキッチンに向かい、寿々花さんの朝食を作り始めた。

昨日もずっと頑張ってたみたいだけど、さすがにレポート20枚は、そう簡単には終わるまい。

今日も一日中、部屋にこもりきりになるはずだ。

疲れてるだろうな…。俺が寿々花さんほど頭良ければ、少しくらい代わってやれるんだが…。

俺が代筆なんかしたら、一瞬でバレるよ。

俺の代筆した部分だけ、あまりにもクオリティが下がるから。

うーん。我ながら情けない役立たず。

俺に出来ることと言えば、頑張る寿々花さんの為に、せめて食べやすい朝食を作るくらい。

作業しながら片手でも食べられるように、おにぎりにしてみた。

普通のおにぎりじゃなくて、調味料を混ぜた特製の味噌をたっぷり塗って焼いた、焼きおにぎり。

それに、箸休めの糠漬けを添えて…っと。

食べてくれるだろうか?つーか、起きてるかな。

寝てても良いけど、起きたら食べてくれよ。

「…寿々花さーん…。入って良いか?」

恐る恐る、俺は寿々花さんの部屋の前に立って、扉をノックした。

…しーん。

…無反応なんだが、俺はどうしたら良い?

まさか、やっぱり寝てる…ってことはないな。

だって、キーボードを叩く音がまだ聞こえてる。

凄い勢いでカタカタ言ってる。ってことは起きてるんだな。

「寿々花さーん。入っても良いか?」

もう一回、部屋の扉をノックして呼びかけてみる。

「…」

…が、やはり返事はない。

待てど暮らせど、キーボードを叩く音が聞こえるだけだ。

…俺の呼びかける声が聞こえないほど、集中してるってことなのか…。

それとも、聞こえてるけど、鬱陶しいから敢えて無視しているのか?

いずれにしても、超集中してるってことだから、俺が入っていくと邪魔でしかない。

それは分かるが、でも夕食抜き、朝食抜きじゃ…どんなに集中してても、脳みそが疲れないか?

ちょっとは休憩、そして栄養補給をするべきだと思うんだよ。

思考力が低下した状態で続けるより、一旦休憩を挟んだ方が、むしろ再開後の集中力が増す。

…って思わないか?

何より、俺が心配なんだよ。

昨日帰ってきて、寿々花さんが部屋にこもってからというもの。

一度も顔を見てないし、声も聞いてないし。

一目見ないと、俺が心配で気が気じゃない。

…ってことで。

「ごめん。悪いけど、勝手に入るな」

一応断ったからセーフ、ってことで。

俺はもう一回ノックして、そーっと寿々花さんの部屋の扉を開けた。

幸い、鍵は掛かっていなかった。
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