アンハッピー・ウエディング〜後編〜
寿々花さんはあっという間に、ぺろりと焼きおにぎりを平らげてしまった。

「はー、美味しかったー」

それは良かった。

「…まだ食べたいか?追加で作ろうか」

「ううん、もう大丈夫。…でも…」

…でも?

「…我儘言っても良い?」

「あんたの我儘は、我儘じゃないから。何でも遠慮なく言ってくれ」

「あのね、ちょっと甘いもの欲しい…。ココアとか、ミルクティーとか…」

ほらな?我儘とは言わないんだよ。そういうのは。

「分かった。すぐ持ってくるよ」

頭を使い過ぎて、脳みそが糖分を欲してるのかもな。

俺はすぐにキッチンに向かい、寿々花さんの為に熱い、甘いミルクティーを作った。

それを持って行ってやると、寿々花さんは美味しそうに飲んでいた。

「はー。美味しい」

良かったな。

「何だか眠くなってきちゃうねー」

「そりゃそうだろ…。昨日、何時まで起きてたんだ?」

「ふぇ?」

きょとん顔の寿々花さん。

…え。嘘だろ。まさか。

「オールなのか…?寝てないのか…!?」

「うん。キノコ博物館から帰ってきてから、ずっとレポート書いてた」

マジかよ。寝ずにレポート作成とか、何処の大学生だ。

せめて二、三時間は寝てるものとばかり。

あの、三度のオムライスより寝るのが大好きな寿々花さんが。

よっぽど集中してたんだな。

それは良いことなのかもしれないけど、寝ろ。

「そこまで頑張って…。進捗状況はどれくらいだ?そろそろ半分は書けたか…?」

自分で言っててなんだが…半分…もキツいよな。

半分でもレポート10枚だぞ?一晩中かかったって、そう簡単には、

「今ねー、結論書いてるところ」

…とのこと。

…結論?

「…どゆこと?」

「レポートって、序論、本論、結論の三部構成が普通でしょ?」

あー、なんか聞いたことある。作文の授業で。

最初に序論で問題提起して、本論でその問題について書きたいこと書いて、結論で総まとめ、みたいな。

ざっくり説明するとそんな感じ。

で、寿々花さんは今、その三部構成の結論の部分を書いていると…。

…え?じゃあつまりそれって。

「…もうそろそろ終わりってこと?」

「うん。あと…2000字くらいかなー」

あまりにもとんでもないことを、あまりにもけろっと言われて。

危うく、こっちが卒倒するところだった。

いくら、寝ずに一晩中書き続けたとはいえ。

はっや。

…え、嘘だろ?マジで?早くね?

そんな一瞬で書けるものなのか?

「見てみる?」

「え、い、良いのか?」

「良いよー。…悠理君に見られると、ちょっと恥ずかしいなー」

何故か、ちょっと照れている寿々花さんをスルーし。

絶賛執筆中のレポート作成画面を、簡単に見せてもらった。

真っ黒い文字が、ズラッと書き綴られている。

すげぇ。マジでめちゃくちゃ書いてる。

現時点でレポート用紙、1、2、3…18枚枚書き終えてて、今19枚目の半分くらいまで到達している。

もう、ほぼ終わってんじゃん。

あんた、よくもまぁ、キノコについてこんなに語ることがあったもんだよ。
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