アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「どうかな?上手く書けてると思う?」

「あぁ…」

頷きながらも、実は正直よく分かっていない。

書いてあることが専門的…学問的過ぎて、内容なんてさっぱりである。

とにかく、昨日帰ってから今朝までに、既に19枚もレポートを仕上げている。

この事実だけで、見上げたもんだ。

俺にはとても真似出来ない。

一緒にキノコ博物館に行って、一緒に順路を回ったはずなのに、この差よ。

俺だったら、一晩かかっても原稿用紙10枚も書けないと思うぞ。

この辺りのポテンシャルの高さ、さすが寿々花さんだよなぁ…。

…しかし、昨日から飲まず食わず、不眠不休で熱中して作業していた弊害も、少なからずあるようで。

「…あれ?何だか頭がふわふわしてきた…」

マグカップのミルクティーを飲み干したかと思うと。

途端に、寿々花さんの様子がおかしくなってきた。

おい。大丈夫かよ。

「悠理君の顔を見て、安心したからかなー。目の前がぐるぐる…」

それは寝不足だ。

当たり前だよ。一晩中ずーっと気を張って、集中してレポートを書き続けたんだろ?

きっと、脳みそはとっくに限界を迎えている。

焼きおにぎりで栄養補給して、甘いミルクティーを飲んでホッとして。

食欲が満たされたら、今度は、忘れていた眠気が襲ってきたのだろう。

「そりゃそうなるだろ。ちょっと寝ろ」

「うーん…。寝たら駄目だよ…あとちょっと、まだ結論の部分が…」

「後回しで良いだろ、そんなの」

もう19枚も書けてるなら、残りは精々一時間もあれば完成するだろ。

ちょっとくらい寝たって大丈夫だ。いや、つーか寝ろ。

「だけど…レポート、もう少し…」

「大丈夫だよ。もう、ここまで書けてるんだから。先に少し休んだって…」

「何だか頭がふらふらして…。…あれ?」

あ?

寿々花さんはぽやーんとして、俺の頭のてっぺんを見上げていた。

「気の所為かな。悠理君の頭に…キノコが生えてる…?」

「落ち着け。それは幻覚だ」

駄目だ。疲労と寝不足のあまり、幻覚が見え始めている。

あんた、よくそんな状態でさっきまでレポート書けてたな。

「寝てくれ。頼むから。夕方くらいには起こすから」

「大丈夫だよー。ちょっと…悠理君の周りでキノコが盆踊り踊ってるだけで…」

「頼むから寝てくれ!」

それは幻覚だ。そんなものはない。

こうなったら、実力行使。

俺は椅子から抱き抱えて、ベッドに連れていった。

強制連行である。

「あーれー」

あれーじゃないんだよ。

無理矢理ベッドに寝かせて、毛布を身体にかけてやった。

それから、部屋の電気のスイッチをオフ。

「よし、おやすみ」

「悠理君ったら、強引にベッド…。…zzz…」

よし、寝たな。

さすが寿々花さん。のび●くんもびっくりの寝付きの早さ。

そのまま、目を覚ますまで寝てて良いぞ。

レポートなら、もう九割方完成したようなものだし。

寿々花さんは安心しきった、緩みきった表情で寝息を立てていた。

間抜けな顔だなー…いつまででも見てられそう。

だが、俺は女性の寝室で、女性の寝顔を眺めているような趣味はないので。

「お疲れさん。…おやすみ」

眠る寿々花さんに、一言そう声をかけて。

俺はそのまま、そっと部屋を出た。
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