アンハッピー・ウエディング〜後編〜
相変わらず…相ッ変わらず、ろくでもない夢を見てんな。

潰すな。俺を。

「悠理君が押し潰されてジタジタしてたから、よいしょーって持ち上げて、起こしてあげたんだー」

「そうか…。それは…ありがとうな」

ってか、ぬりかべってあのゴツい妖怪みたいな奴のことだよな?

よくあんなもん、よいしょーで持ち上げられたな。

夢の中でも力持ち。

それから、ぬりかべに潰されていたにも関わらず、命があった自分にも尊敬する。

普通死ぬわ。

「そうしたら、夢の中の悠理君に怒られちゃって…」

「え、何で?」

もっと早く助けろよ、って?

それはさすがに図々しい、

「心地良い重量感で気持ち良かったのに、ぬりかべを退かしちゃったからって…」

ぬりかべに潰されて快感を覚えるなんて。俺は変態かよ。

寿々花さんの中で、俺の認識はどうなってんの?

「そうしたら悠理君が、一緒にぬりかべに潰されようって誘ってくれたから…」

他人まで誘って潰される。やっぱり変態。

「一緒に潰されてみたんだー」

あんたも乗ってくるなよ。

断れよ。一人で潰されろ変態、って。

「二人で仲良く、ぬりかべにサンドイッチされる夢だったの。面白かったー」

「…とんでもない夢見てんな…」

「で、その夢があんまり楽しかったから、絵にしてみたの」

成程。

なんか、四角い豆腐かはんぺんみたいなものが描かれていて、これ何なんだろうと思ってたが。

これ、ぬりかべなのか。

で、そのぬりかべに突き刺さるように、細長く生えてる二本の爪楊枝みたいなのが…。

「…これ、俺と寿々花さん?」

「うん!」

「…そうか…」

めちゃくちゃ良い笑顔で頷かれてしまった。

ふざけんな、なんつー夢を見てんだ、と怒りたいところだったが。

どんな夢を見るかなんて、自分で選べることじゃないし。

むしろ寿々花さんは、夢の中で俺を助けようとしてくれた訳だから、余計文句は言えない。

何より、寿々花さんが楽しそうだから、それで良いじゃないか。

なんか納得出来ない気もするけど、寿々花さんが楽しそうだから、それで良し。

うん。良いってことにしよう。

俺は、自分にそう言い聞かせた。

「えへへ。上手く描けたから、悠理君に見て欲しかったんだー」

「はいはい。上手に描けてたよ」

「褒められちゃった。嬉しいなー」

満足そうな寿々花さんである。

…で、俺もう、そろそろ家に入って良い?

玄関先でそんなもの見せられても。せめてリビングに入ってから…と、思っていたら。

「…あ、そうだ」

寿々花さんが、再びくるりと踵を返した。

「?どうした?」

「ついでに、これも見せてあげようと思ったんだった。はい、これ」

「…?何?」

また別の絵か、と思われたが、そうではなかった。

スケッチブックとは違う、A4サイズの小冊子だった。

…これは?

「この間、生物のレポート課題が出たでしょ?覚えてる?ほら、悠理君に盗聴器を仕掛けて…」

…嫌な思い出を蘇らせてくれるな。

「…覚えてるよ…」

未だにトラウマなんだから。あの盗聴器。

うっかりベッドサイドに残ってないかと、ベッドランプの笠を調べるのが癖になってるくらいだ。
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