アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「で、この小冊子は?」

「あの時提出したレポートの中で、生物の先生が特に優秀だって評価した生徒のレポートを、そうやって小冊子にまとめて配ってくれたんだー」

…へぇ。

じゃあ、これあの時の課題の…レポート集ってこと?

特に優れたレポートをいくつか選んで、冊子にまとめてくれたらしい。

粋なサービスしてくれるじゃないか。

他の生徒はどんなレポートを書いたのか、気になってたんだよ。

「見ても良い?これ。俺は男子部の生徒だけど…」

「うん。他の人に見せたら駄目、なんて言われてないし」

あ、そう。

じゃあ、遠慮なく。

ごめんな、女子部の生徒達。男になんか見られたくねーよ、って思ってるかもしれないが。

興味があるから、見せてもらうよ。

つーか、ぬりかべに潰されてる絵より、先にこっちを見せてくれよ。

どう考えても、優先順位が逆だろ。

俺はリビングに入って、ソファに座るなり。

早速、レポート集の小冊子を開いてみた。

ずらー、っと並ぶ長い文字。

おぉー、さすが女子部の生徒が書いたレポート…。

…と思ったが。

「…なんか、短くね?」

一人分のレポートの文字数。少なくね?

レポート用紙20枚分だろ?もっと一部一部が長々と…。

「あ、うん。あれ、私間違ってたみたい」

と、寿々花さん。

「は?間違ってたって…何が?」

「レポート20枚書きなさい、じゃなくて…。上限が20枚まで、だったみたい」

何だと。

今更明かされる、衝撃の新事実。

最低20枚、じゃなくて。

最高20枚、だったってことか。

おかしいと思ったよ。だってレポート用紙20枚っていくらなんでも多過ぎるもん。

20枚が制限だからって、勘違いして律儀に20枚も書いてるのは寿々花さんくらいで。

他の生徒はもっと少ない。多分…長くても、レポート用紙10枚くらい。

なんてことだ…。もっと早く知っていれば、寿々花さんもオールでレポート作成せずに済んだだろうに。

「あんたなぁ…。そういうことは、ちゃんと確認してから書けよ…」

○○字以内、と○○字以上、は大違いなんだからな。

「えへへー」

笑って誤魔化そうとするんじゃない。

今回は、まだ何とかなったから良かったようなものの。

入学試験とかでそういうミスをすると、本当に取り返しがつかないんだからな。

まぁ、良いけどさ。20枚が上限ってことは、寿々花さんはギリギリぴったり、上限を上回っていない。

今回はセーフ、ってことだ。

それに、少な過ぎるよりは、多過ぎる方がまだマシ…じゃないか?

え?過ぎたるは及ばざるが如し?

過ぎてはないから良いんだよ。

意欲が。レポート課題に真剣に取り組む意欲が、文字数に表れていると思ってくれ。

そのやる気だけは、生物の先生も評価してくれていることだろう。

…まぁ、まさか寿々花さんが、キノコについてこんなに熱く語るとは思ってなかっただろうが。
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