アンハッピー・ウエディング〜後編〜

「駄目だ、味方がいねぇ…。四面楚歌だ。自分の周りに誰も味方がいねぇよ…」

力なくそう言って、雛堂は机にへばりつくように突っ伏した。

あーあ…。ヘタってしまった。

「悠理兄さんはリア充、真珠兄さんは鈍感な中二病…。生まれてこの方、母親にさえバレンタインチョコなんてもらったことない非モテ男の気持ちなんて、誰も分かってくれないんだ…」

ま…まぁまぁ。

バレンタインチョコを誰からももらえないからって、そんなに落ち込むことは…。

「雛堂…。そんなに落ち込むなよ。バレンタインチョコくらいで…」

「うるせーよ…。本命チョコもらえる予定がある奴が、自分に説教してんじゃねぇ」

さっきから、雛堂は何か誤解しているようだな。

「あのな。俺だってあんたと同じだぞ。確かに母親からチョコもらったことはあるけど、今年はゼロだからな」

「はぁ？無月院の姉さんがいるじゃないかよ」

「残念だったな。うちの寿々花さんは、そういうイベントには疎いんだよ」

ハロウィンもクリスマスも、ろくに経験したことのない箱入りお嬢様だからな。

当然、バレンタインにも疎いに違いない。

寿々花さんに、「バレンタインって知ってる？」って聞いてみろ。

きっと、寿々花さんのいつもの専売特許、きょとんと首を傾げて「ふぇ？」が返ってくるはずだ。

バレンタインという言葉すら、知っているかどうか。

普通の女子高生なら、バレンタインと聞けば少なからず浮足立つイベントだろうが。

うちの寿々花さんは、良い意味でも悪い意味でも、「普通の女子高生」ではないからな。

早い話が…。

「寿々花さんは、俺にチョコなんて渡すつもりはないと思うぞ」

「え、そうなの？マジで？」

「あぁ。マジでだ」

「心のこもった、愛の手作りチョコもらうんじゃねぇの！？」

「…もらわねぇよ…」

恐ろしいことを言うな。

市販されているチョコレートならともかく。

寿々花さんの手作りチョコなんて、猛毒に等しい。

もらったとしても食べたくないし、そもそももらうつもりはない。

「マジかよ、やったー！じゃあ悠理兄さんもバレンタイン負け組ってこと？自分の味方じゃん！」

「…」

…その言い方は、なんか腹立つが。

まぁ、そういうことだ。俺も雛堂と同じ、バレンタイン負け組だよ。

「やっぱり、悠理兄さんだけは自分を見捨てないでくれるんだな！大好き！愛してる！」

「うぜぇ…」

「負け組仲間同士、一緒にチョコパフェでもヤケ食いしに行く？」

一気に元気になったな。負け組仲間がいると知って。

「傷の舐め合いじゃないですか…」

乙無がボソッと呟いていたが、今の雛堂の耳には届いていなかった。

雛堂が落ち込んでるようだから、別にチョコパフェだろうとチョコケーキだろうと、付き合ってやるのは構わないけど。

チョコもらえない者同士、チョコ菓子のヤケ食いで傷を舐め合うって。

それ、むしろ虚しくならないか…？