アンハッピー・ウエディング〜後編〜
つーか、そもそも。

…俺、今すげー邪魔だよな?

久し振りの姉妹の対面に、割り込んでんじゃねーっての。 

すぐ去ろう。

あ、そうだその前に…。お茶、淹れるべきだよな?

どうしよう。お茶…。

うち、椿姫お嬢様みたいなかしこまったお客さんに出す、洒落たティーカップなんて置いてないぞ。

こういうときって、お茶…コーヒーとか紅茶を出すべきだよな?

でも、うちのコーヒーはただのインスタントコーヒーだし。

紅茶だって、普通のティーバッグのしかない。

…貧乏臭い家だって思われるだろうなぁ…。

今から買って…きても、もう遅いよな…。

つーか、そんな近所にお高い紅茶の茶葉を売る店なんてねーっての。

そして、根っからの貧乏性である俺は、お高い紅茶の淹れ方なんて知らない。

ついでに、お茶のお供になりそうな、気の利いたお茶菓子もない。

精々、買い溜めしていた市販のお菓子があるだけ。

改めて、自分の育ちの貧しさを思い知らされて、泣けてくる。

良いじゃないか。なぁ?別にこれくらい普通だよ。

椿姫お嬢様や寿々花さんと比べるから、凄く貧しいように思えるだけで。

この人達が異常なんだよ。

それはそれとして、例えティーバッグの紅茶でも良いから、飲み物は出さないといけない。

「えぇと…何か飲みますか?…って言っても、インスタントコーヒーと紅茶のティーバッグくらいしかないんですけど…」

この人、インスタントコーヒーなんか飲んだことあるのかな?

何処ぞの有名ブランドのコーヒー豆を自家焙煎して…みたいな、コーヒー専門店で飲むようなコーヒーしか飲んだことなさそう。

「あぁ、良いのよ。お気遣いなく」

「いや、でも…」

「これ美味しいよ。一緒に飲む?」

と、寿々花さんが口を挟んできた。

寿々花さんの言う、これ、とは勿論。

さっき俺が作った、自家製スイカジュース。

…あんたは、なんてものを自分の姉に勧めようとしてるんだ。

来客にスイカジュースって。しかも椿姫お嬢様みたいな人に。嘘だろ?

「さっきから気になってたわ、それ。何かしら。ベリージュース?アセロラドリンク?」

いいえ、スイカジュースです。

しかも自家製です。…とも言えず。

何だか、凄く貧乏臭い気がしないか?

それなのに寿々花さんは、全く恥じる様子もなく。

「スイカのジュースだよ。さっき悠理君が作ってくれたの」

むしろ、何故か自慢げにそう答えた。

あぁ…言っちゃった。

「スイカ…?スイカのジュース?」

「うん。悠理君の友達がスイカ持ってきてくれて。それを悠理君がジュースにしてくれたの。ね、悠理君」

「…そうだな…」

隠す気ゼロだな、あんたは。何でも。

どうしよう。円城寺みたいに、「スイカなんて貧乏人の子供の食べ物」とか言われたら。

…スイカに失礼だろ。

と、思ったが。

「そうだったの。美味しそうね、是非私にもいただけるかしら」

えっ、マジ?

このお嬢様、随分好奇心が旺盛だ。
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