アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「チョコレート…。お世話になってる人…好きな人にチョコレートをあげるの?」

「そうだよ」

「わー。なんだか素敵なイベントだね。そんな日があるの?」

「あるよ。来週の14日だ」

その日がバレンタインデーだよ。

「学校の図書館、見たか?バレンタイン特集コーナーが作られてただろ」

寿々花さんって、学校の図書館を利用することはあるんだろうか。

いや、例え図書館に足を運ばなかったとしても…。

周りが女子生徒ばかりなら、必然的に…。

「クラスメイトが話してないか?最近。チョコレートがどうのって…」

「そういえば…。パリのチョコレートが好きとか、ベルギーのチョコレートを取り寄せてーとか、そんなお話をしてる子がいたなー」

パリのチョコだって。ベルギーのチョコだって。

さすが、お嬢様揃いの聖青薔薇学園。

チョコレートのレシピ本を買うことさえ渋っている貧乏性の俺とは、スケールが違うな。

食べたことないよ、俺。そんなお洒落な外国産のチョコレートなんて。

…一枚百円の板チョコで充分じゃね?

「あれはそういうことだったのかー。うーん。悠理君って、やっぱり物知りだねー」

「…あんたが世間の常識を、知らな過ぎるだけだと思うけどな…」

バレンタインくらい、大抵の人が知ってるだろ…。

あ、でも、昔雑学的に聞いたことがある。

バレンタインデーにチョコレートをプレゼントする文化があるのって、日本だけなんだろ?

成程、それなら寿々花さんが知らなくてもおかしくな…。

…いや、でもやっぱりそれくらい知っていて欲しかったな。日本人なら。

「ってか、分かっててそんな本読んでたんじゃないのか?」

「ふぇ?ううん。本屋さんに行ったら、おっきな特設コーナーがあって、そこに平積みされてたから…今はこの本が流行りなのかなーと思って」

あ、そう。そういうこと…。

きっと街の本屋さんでも、学校の図書館と同じように、バレンタインの特集本を集めて、特設コーナーを作ってたんだろう。

寿々花さんはそれを見つけて、その本を手に取っただけで。

別に、バレンタインのことを分かっていた訳じゃない。

まぁ、そんなことだろうと思ったよ。寿々花さんは。

「…で、面白いのか?その本」

「うん。チョコレートの作り方が書いてあるんだよー」

だろうな。タイトルに書いてあるもん。

チョコレートの作り方、って。

…いや待て。チョコレートの作り方だと?

「それって、チョコレートのレシピが載ってるってことか?」

「ふぇ?うん」

マジで?これ、朗報?朗報なんじゃね?

棚からぼた餅なんじゃね?

「丁度良かった…」

「?何が丁度良いの?」

ついさっきまで俺、図書館に寄って、そういう本を探してところなんだよ。

まさか、寿々花さんが持っているとは。

渡りに船とはこのことである。
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