アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「寿々花さん、悪いんだけど、その本俺に貸してくれないか?」

と、俺は寿々花さんに尋ねてみた。

「?悠理君に?良いけど…」

「良かった。来週、さっき言ったバレンタインデーがあるから…。チョコを手作りしてくれって、雛堂に頼まれたんだよ」

雛堂分かる?俺の友達の、邪神の眷属じゃない方な。

「手作りのチョコ…。悠理君が?その人に?」

「あぁ。今日、そういう話になったんだよ」

「そうなんだ…。悠理君が手作りチョコ…。バレンタインっていうのは、好きな人にチョコを作ってあげる日…。はっ!ってことは…」

「…?」

何ブツブツ言ってんの?よく聞こえないんだが。

「悠理君は、その人のことが好きってこと…?」

「…なぁ、寿々花さん。さっきから何言ってんだ?」

やっぱり私の本だから、安々とは貸せない、って言ってる?

それならそれで…仕方ないから、当初の予定通りネットでレシピ検索をするよ。

「そうなんだ…。悠理君はやっぱり、私よりお友達の方が…」

「…??」

何やらブツブツ呟きながら、ずーん、と落ち込んでいる寿々花さん。

…マジでどうしたんだ?

さっきから、気分の浮き沈みが激しくね?

もしかして、また何か誤解して…勘違いしてる?

よく分からないけど…。

「寿々花さんは、どのチョコレートが好きなんだ?」

「…ふぇ?」

雛堂と乙無には、俺が選んだ簡単なレシピのチョコレート菓子を作るつもりだが。

寿々花さんには、もっと特別なチョコを作ってあげたい。

ましてや、レシピ本を貸してくれるなら尚更。

それに、一番お世話になってる人だからな。

言い換えれば、寿々花さんへのチョコレートは、俺にとっては「本命チョコ」になる訳だ。

だから、寿々花さんのリクエストは聞くぞ。

で、一番上手に、上手く出来たものを寿々花さんにあげよう。

余ったり、形がちょっと崩れたりしたのを、雛堂と乙無にあげる。

これで行こう。

「…悠理君、お友達にチョコ作るんじゃないの?何で私に聞くの…?」

「え?いや…。確かに雛堂達にもあげるけど、勿論寿々花さんにもあげるつもりだから…」

「…」

きょとーん、ぽかーんとする寿々花さん。

…何?その顔…。俺、何か変なこと…おかしなことでも言ったか?

あ、そうか。俺は貧乏性だから、つい手作りを前提に考えてしまったが。

クラスメイトは、パリだのベルギーだのの、超高級ブランドのチョコレートの話をしてたんだよな。

それを聞いていたら、俺の手作りチョコなんて駄菓子も同然。いや、駄菓子以下と言っても良い。

「…要らなかったか?」

寿々花さんもクラスメイトと同じように、外国から取り寄せたお高いブランドのチョコの方が…。

と、思ったが。

寿々花さんは、ぶんぶん、と首が取れそうな勢いで横に振った。

…要らない訳じゃない、という認識でOK?

「要る?チョコレート。俺の手作りチョコ食べたいか?」

ぶんぶん、と今度は首を縦に振った。

分かった、分かった。

分かったから、首がもげるからちょっと落ち着きなさい。
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