アンハッピー・ウエディング〜後編〜
じゃ、当初の予定通り。

俺が今年作るチョコレートは、寿々花さん、雛堂、乙無の三人分ということで。

バレンタインチョコなんて作るの初めてなのに、いきなり三人分とは。

我ながら、ハードル上がってんなぁ。

「…良かった。悠理君は私のことなんて、眼中にないのかと…。私にもチョコレートをくれるってことは、そういう訳じゃなかったんだ…」

相変わらず、寿々花さんは何やらボソボソ呟いてるし。

大丈夫か?何か心配なことでも?

「…それで?結局、本、貸してもらえるのか?」

「うん、良いよ」

とのこと。

良かった。助かったよ。

これで、ネットでレシピを漁らなくて済む。

更に寿々花さんは、レシピ本を貸してくれるだけではなく。

「あのね、悠理君。私も悠理君にお世話になってるから。悠理君のことが好きだから」

「え?あ、うん。」

どうした?突然興奮して。

「私も一緒に、悠理君と一緒にチョコレート作っても良い?それで、悠理君にチョコあげたいの」

「…」

寿々花さんの「お願い」は、大抵我儘とは思えないほどささやかなお願いばかりだから。

いつも、甘んじて許して、好きなようにさせてきた俺だったが。

こればかりは、一瞬返事に窮した。

…マジで?寿々花さんも一緒に作るの?

…それ、大丈夫?ちゃんとチョコレート出来上がんの?

しかし、寿々花さんはいつになく乗り気な様子で。

「週末に、チョコレート作るんだよね?」

「えっ…。うん、そのつもりだけど…」

「それじゃあ、材料。この本に書いてある材料もね、週末までに私が用意しておくね」

やる気満々、準備も万端じゃないか。

…寿々花さんが、ここまで何かに熱中しているとは。

おままごとやシャボン玉などの遊び以外で。

何より、レシピ本を貸してもらい、材料まで用意してもらえるとなれば。

貸してもらう、用意してもう立場の俺が、「いや、あんたは何もしなくて良いから」とは言えなかった。

寿々花さんが料理に挑戦する。キッチンに立つ。もうこれだけで、非常に危険な香りがするが。

まぁ、今回は一人じゃなくて、俺も隣で監督してるから。

調理の過程で変なものを入れないよう、変なことをさせないように、見張っておくから。

くれぐれも、目を離さないようにな。

それなら多分…多分大丈夫だろう。

少なくとも、食べられないものにはならないはずだ。うん。
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