アンハッピー・ウエディング〜後編〜
と、覚悟を決めたのは良いものの。

カカオ豆からチョコレートを作るという作業は、俺の予想以上に大変で…。

途方もない時間と労力のかかる作業だった。

という事実を、俺は作業をしながら、嫌というほど思い知られることになるのである。





「さて…じゃ、まずは一つ目の行程…」

文句言ってても始まらないから、さっさと取り掛かろう。

幸い作り方は、猿でも分かるくらい簡単()ならしいから。

何とかなるだろう。何とか…うん。

「まずは、綺麗になるまで洗いましょう、だって」

と、寿々花さん。

洗うのか。米研ぎみたいなものか?

まぁ、外国から遥々旅してきたカカオ豆だからな。

色んなホコリとかついてそうだし、まずは洗おう。

しかし、この洗うという作業。

普段の米研ぎとは比べ物にならない、根気の必要な作業だった。

何回洗っても何回洗っても、ボウルの底に溜まる水は、茶色く濁ったまま。

めっちゃ汚れてんじゃん。

「なかなか綺麗にならないねー」

「あぁ…。手ぇ冷たい…」

今、2月の半ばだからな。

蛇口を捻って出てくる水は、氷水のように冷たい。

こんな水で、何度も何度も豆を洗ってたら霜焼けになるわ。

お湯で洗おうかと思ったけど…。

お湯で洗ったら風味が飛ぶ、とかそういうことある?

分からないけど、分からない故に、素人判断で勝手なことは出来なかった。

…仕方ない。我慢して冷水で洗うか。

「悠理君。代わろうか?」

俺が必死に豆を洗っているのを見て、寿々花さんが心配そうに声をかけてきた。

ありがとうな。この気遣いは有り難いんだが。

「大丈夫、俺がやるよ」

だって、水めっちゃ冷たいんだもん。

寿々花さんの手が霜焼けになったら困る。

大体こういう水仕事は、お嬢様の仕事じゃないだろ。

「大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫…」

とか言いながら、なんかもう冷た過ぎて手の感覚がなくなってきている。

早く汚れ、全部落ちてくれ。頼むから。
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