アンハッピー・ウエディング〜後編〜
それからしばらく、冷水でカカオ豆を洗い続け。

ようやく水が濁らなくなってきたので、洗い作業終了。

はー、疲れた。

冷え切った両手を合わせて揉み、少しでも温めようと努力した。

洗うだけでこれだよ。

前途多難過ぎないか?

でも、やり遂げたからな。ちゃんと綺麗になった。

千里の道も一歩から、って言うだろ?

例え千の行程があったとしても、一個ずつ確実に進めていけば、いずれゴールに辿り着く。

そう思って頑張ろう。

しかし、俺はまだ知らなかった。

洗い作業なんて、まだまだ可愛い序の口。

本当に大変なのは、ここからなのだということを。




「で、次は?」

「オーブンでローストします、だって」

成程。水分を飛ばすのかな。

「悠理君、オーブンって使える?」

「使えるよ。ちょっと待って…」

俺はオーブンの天板を引き出しから取り出し、テーブルの上に置いた。

天板にクッキングシートを敷いて…っと。

「よし、この上にカカオ豆を並べてくれ」

「うん、分かったー」

その間に、俺は予熱の準備。

寿々花さんが天板にカカオ豆を並べてくれたので、それを予熱したオーブンの中に入れた。

ここから約30分かけて、カカオ豆をローストする。

30分の休憩時間をもらった気分だ。

しかし、休憩だからって居眠りをしている訳にもいかず。

オーブンが動いている間に、次の工程の準備をしよう。

「寿々花さん、次はどうするって?」

「えっとねー…。殻を向いて胚芽を取り除きます、だって」

殻剥きだってよ。

栗みたいだな。…胚芽って何?

ともあれ、ここからは地味な作業になりそうだ。

テーブルの上に新聞紙を何枚か敷いて、その上で作業しよう。

すると、寿々花さんが二人分のペンチとピンセットを持ってきてくれた。

「はい、悠理君。これ」

「おぉ。ありがとう」

いよいよ、ペンチとピンセットの出番である。

およそ料理に使いそうにない道具だと思ってたけど、成程、殻剥きの為に使うのか。

ようやく腑に落ちた。

『猿でも分かる!チョコレートの作り方』によると。

殻を剝いて、胚芽を取り除いて、カカオニブという状態にするのだとか。

そのカカオニブを、そこからまた、あれこれと加工して、砂糖と混ぜて…という作業が、この後に待ち受けている。

まだまだ前途多難だな…。

などと考えていると。

「あ、悠理君。オーブン終わったー」

「終わったな…」

ロースト作業が終わったので、俺の束の間の休憩時間も終了。

ここから、殻剥き作業が始まる。
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