アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ここからが、また非常に大変な作業だった。

殻剥きと聞けば、それほど大変そうに聞こえないだろう?

そんなことないから。めちゃくちゃ大変だから。

殻が硬過ぎて割れない、って訳じゃない。

ペンチで歯が立たないとまでは言わないが、かと言って、枝豆の皮を剥くように簡単に剥けるはずもなく。

二人でテーブルの前に座って、パチンペチン、とペンチで殻を剝き。

ピンセットを使って、ちっこい虫みたいな、黒い胚芽を取り除いていく。

この作業の地味なこと、そして大変なこと。

黙々と、黙々と、一個ずつ殻を剥いていく。

もうこれ、永遠に終わらねぇんじゃないかなって。

肩凝ってきたなぁ…。手も痛いし首も疲れて…。

俺の頭の中は、不満と愚痴でいっぱいだったが。

「ふんふんふーん♪もーいくつ寝るとー♪ばれんたい〜ん♪」

一緒に作業している寿々花さんは、この余裕の表情。

お得意の替え歌まで歌っている。

あんた、本当その替え歌好きだなぁ…。

同じ作業をしているはずなのに、片や不満たらたらで、片や鼻歌交じり。

後者の方がずっと楽に作業出来るに違いない。

「寿々花さん…。つまらなくないのか?」

「ふぇ?」

「いや、さっきから楽しそうに歌ってるから…」

つまらなくないのか。この地味な作業が。

あーもうやめたい、やーめよ、って投げ出しても良いんだぞ。

バチは当たらないから。

それなのに、寿々花さんは。

「うん、楽しいよー、とっても」

だ、そうだ。

見習いたいくらい鋼のメンタルだな。羨ましい。

俺も同じように言えたら、どんなに楽だったか。

「寿々花さんって、コツコツした作業好きなタイプ…?」

「ううん、そうじゃなくてー…。悠理君と一緒だから楽しい」

は?

「どんなつまらない作業でもキツい作業でも、悠理君と一緒だったら何でも楽しいよ」

えへへ、と嬉しそうに笑って答える寿々花さん。

…へぇ、ふーん、そう。

「…あんたって人は…卑怯な奴だな…」

「ふぇ?悠理君、何か言った?声が小さくて聞こえなかった」

わざと聞こえないように、小声で言ったんだよ。

「別に、何でもねぇよ」

何でもないとは言いながら、腹の中では、寿々花さんって卑怯だなと思ってる。

そんなこと言われたらさぁ。

そんな無邪気な顔してそんなこと言われたら、俺だけ途中で投げ出す訳にはいかないじゃないか。

最後まで一緒に頑張ろうね、って無理矢理約束させられた気分だ。

退路、完全に断たれた。

…仕方ない、文句言わずに頑張るか。
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