アンハッピー・ウエディング〜後編〜
それから俺は寿々花さんと交代で、代わる代わる作業を続けた。

朝早めに作業を始めたはずなのに、気づけば時刻は正午を回っていた。

寿々花さんと代わる代わる作業したが、それでも俺の腕はパンパンになっていた。

明日は絶対、筋肉痛不可避。

痛みを通り越して、段々腕が痺れてきた。

すりこぎを動かしながら、腕の痛みに何度も顔をしかめ、何度も諦めそうになり、何度も投げ出しそうになった。

しかし、その度に必死に衝動を堪え、我慢し、黙々と作業を続行した理由は。

「よいしょー。よいしょー」

寿々花さんが、相変わらず余裕そうな顔ですりこぎで動かしているからである。

この人は疲れるということを知らないのだろうか。

俺と同じように、腕、痛いはずなのに。

全然そんな様子は見せない。凄い人だ。

相棒が居るって、心強いもんだな。

諦めそうになっても、相棒が頑張ってるから自分も頑張ろう、って思える。

寿々花さん、あんたはすげーよ。

俺一人だったら、とっくに心折れてる。

多分、殻剝きの時点で全てを投げ出してる。

そもそも俺一人だったら、カカオ豆からチョコレートを作ろうなんて無謀なことは考えない。

ここまで苦労して作ってるんだ。

雛堂に万が一「不味い」とか言われたら、すりこぎで顔面ぶん殴ってやろう。

などと考えながら、作業を続けること数時間。

硬い種だったカカオ豆は、どろっとペースト状に変化した。

何だろう。一気にそれっぽく見えてきたな。

匂いも、めっちゃチョコレート。

濃厚なチョコレートの匂いが、部屋中に漂っている。

チョコレートの完成形が見えてきたな。ここまですげー長かった。

だが、まだまだ作業は終わらない。

『猿でも分かる!チョコレートの作り方』を読んだところ、むしろここからが肝心とのこと。

今から湯煎、テンパリングを開始。

「何だかチョコみたいだねー。悠理君」

寿々花さんはうきうきの表情で、すり鉢の中を見下ろしていた。

「チョコだからな」

自分が今何を作ってるのか、ちゃんと覚えといてくれよ。

分量の砂糖を入れ、料理用の温度計で絶えず温度を図りながら。

細心の注意を払って、滑らかになるまでかき混ぜ続けた。

力は使わないけど、それ以上に神経を使う。

本によると、このテンパリング作業の如何によって、チョコレートの出来が左右されるのだとか。

滑らかなチョコレートにするには、適切な温度で混ぜなければならない。

と言っても、俺達ド素人だから。

見様見真似、半信半疑でやるしかない。

ここまで来たからには、完成まで一気に駆け抜けるだけだ。

神経を使った湯煎作業が終わり、どろどろになったチョコレートを型に入れる。

それを冷蔵庫に入れて、あとは固まるのを待つだけ。
 
「はぁー…。終わった…」

ようやく、作業終了。

お疲れ様でした。
< 549 / 645 >

この作品をシェア

pagetop