アンハッピー・ウエディング〜後編〜
翌日。

案の定、パンパンになった俺の両腕は、激しい筋肉痛を発症。

腕を上げ下げするどころか、寝返りを打つのも辛かった。

「うぐっ…。つぅ…」

思わず、呻き声を漏らしてしまうほどの痛さ。

これほどの筋肉痛は、ハーフマラソン走らされた翌日以来だな。

あの時は脚だったけど、今回は腕だ。

脚も辛いが腕も辛い。

何が辛いって、脚なら座っとけば痛くないけど、腕の痛みは立ってようと座ってようと関係ないってことである。

一日中、手を動かさずにじっとしてる訳にもいかないもんな。

これでも一応、昨日寝る前に、予防のつもりで湿布を貼って寝たんだぞ?

全然効いてない。

いや、むしろ効いててこれなのか?

「いてぇ…」

思わず、何度もそう呟いてしまったところ。

その呟きが、寿々花さんの耳に届いたようで。

「…!悠理君、どうしたの?何処か痛いの?」

心配したような表情で、寿々花さんが駆け寄ってきた。

よう。あんたは元気そうだな。

「悲しいの?寂しいの?誰かに泣かされたの?」

「いや、泣いてねぇけど…」

「悠理君に辛いことがあったら、何でも言ってね。私に出来ること何でもやって、悠理君を助けてあげるから」

あ、うん。そりゃどうも。

じゃあこの筋肉痛を今すぐ治してくれ…と言いたいところだが。

魔法使いでもない限りそんなことは不可能なので、気持ちだけ有り難く受け取っておくよ。

…って言うか。

「寿々花さんは筋肉痛、大丈夫なのか?」

「ふぇ?」

「昨日、何時間もすりこぎでゴリゴリやってたから…。腕痛くなってねぇの?」

「腕?うん。何ともないよ?」

マジかよ。

本当は痛いのに、痩せ我慢してるんじゃないよな?

試しに、寿々花さんの腕を軽く押してみたところ。

「…?」

きょとんと首を傾げるだけで、ノーダメージ。

強がってる訳じゃなさそう。

むしろ、寿々花さんの腕を押す為に動かした、俺の腕の方が痛かった。

あんたの正体、もしかしてアンドロイドとかだったりする?

あれだけ力仕事をして、一切筋肉痛無しとは。

「寿々花さん…。俺はあんたがある日突然、『実は私エイリアンなんだー』とか言い出しても、多分驚かないよ」

「え、本当?じゃあ、実は私エイリアンなんだー。悠理君のこと攫いに来ちゃったー」

「そうか…。やっぱりそうだったのか…」

もう良いんじゃないかな。寿々花さんはエイリアンってことで。

アンドロイドだろうと、エイリアンだろうと、邪神の眷属だろうと。

寿々花さんは寿々花さんだから、俺の態度は変わらないよ。

「腕、痛いの?よしよし。痛いの痛いの飛んでけー」

ありがとう。

1ミリも痛みは減ってないけど、労おうとしてくれる、その気持ちが嬉しいよ。
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