アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「おぉー!やったぜ!悠理兄さん、さんきゅ!」

「ありがとうございます。世俗的な人間のイベントには興味無いですが、悠理さんの手作りとなると話は違いますからね」

そうだな。

それ作るの、めちゃくちゃ苦労したから。

「そんなもの要らない」と言われたら、すりこぎで顔面ぶん殴るところだった。

「まさか、マジで作ってくれるとはなー」

は?

「あんたが作ってこいって言ったんだろうが」

まさか、冗談のつもりだったのか?

真に受けてマジで手作りしてきた、俺の苦労って一体。

「いやいや、悠理兄さんならマジで作ってくれるって信じてたよ」

「本当かよ」

「本当だって。やったー、バレンタインチョコなんか、ましてや手作りチョコなんて初めてだ。めっちゃ新鮮な気分!」

雛堂、いつになくご満悦。

良かったな。

「これで、悠理兄さんが女子だったら完璧だったんだけどな」

「悠理さん、女子力高いですし、スカート穿いたら似合いますし、ほぼ女子みたいなものなんじゃないですか?」

「おぉ、そうだ!真珠兄さん、頭良い」

何処がだよ。全然良くないわ。

おい。勝手なこと言ってんじゃねぇぞ。

何?その頭悪そうな理屈。

「実質、女子に手作りチョコもらったようなもんだな。これで自分も、『女の子からチョコもらったことない歴=年齢』を卒業したな!」

「ふざけんな。絶賛今年も留年中だよ」 

没収するぞ、この野郎。

まぁ、でも、雛堂の言うことはあながち間違いではない。

俺が実質女子だからじゃないぞ。

だってそのチョコ、寿々花さんと一緒に作ったから。

一応、女子の手作りということになる。

「早速食べて良い?」

「どうぞ」

あとは、味の感想だな。

これは非常に気になるところ。

実は俺も昨日の朝、一晩かけて固まったチョコを、恐る恐る食べてみた。

寿々花さんと二人でな。

「どんなチョコかな~」

わくわくと期待しながら、雛堂と乙無はラッピングバッグを開けた。

そのラッピングバッグは、百均で買ってきたものである。

つーか、もう少し隠しながら食べてくれよ。

昼休みとはいえ、他の生徒に見られていたら。

雛堂と乙無が、女子からバレンタインチョコをもらったんじゃないかと勘違いされ。

嫉妬のあまり、先生に密告される恐れがある。

人間の嫉妬は恐ろしいぞ。

それなのに、雛堂も乙無もそんなことは全く気にせず。

堂々と、ラッピングバッグを開けた。

中から出てきたのは、星型やハート型の小さなチョコレート。

「ほう…?」

雛堂は、じーっとそのチョコを見つめた。

…何だよ。

見てないで食べろよ。

「…何だ。文句があるなら言ってみろよ」

「いや。文句は何もないけど」

「王道と言うか…。意外とシンプルな線を突いてきましたね」

と、乙無。

まぁ、言われてみればそうだな。

ガトーショコラ、チョコクッキー、チョコプリン、フォンダンショコラなど、チョコレートのお菓子はたくさんあるが。

当初は、俺もそういうチョコレート菓子を作るつもりだった。

…寿々花さんが、「あの本」を持っていなかったら、な。
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