アンハッピー・ウエディング〜後編〜
二人にチョコレートを試食してもらった段階で。

俺は、そのチョコが実は、カカオ豆から作ったのだと説明した。

これには、雛堂もびっくり。

「マジかよ。道理で普通のチョコの味じゃないと思った!何処で買ってきたのかと思ってたら…」

まさか、カカオ豆から自分で作っていたとは。

我ながらよくやったと思うよ。俺も、寿々花さんもな。

「自分、手作りチョコが食べたいとは言ったけど、そこまでしてくれとは言ってねぇぞ」

雛堂は驚きを通り越して、申し訳無さそうにそう言った。

「分かってるよ…。俺の発案じゃなくて、言い出しっぺは寿々花さんだ」

「カカオ豆の状態から、どうやって作ったんですか?レシピがあったんですか」

と、尋ねる乙無。

「本だよ。寿々花さんが持ってた本」

『猿でも分かる!チョコレートの作り方』って本。

あれは眺めて楽しむ本であって、実践するものではない。

「さぞ大変だったでしょうね。僕はやったことないですけど、素人が手を出してはいけないと聞いたことがあります」

「あぁ…。本当に…言葉に言い尽くせない苦労があったよ」

分かってくれてありがとうな、乙無。

そのチョコが、俺と寿々花さんの汗と涙の結晶なのだということを、理解した上で食べてくれ。

そうしてもらえたら、俺達の苦労も報われるというものだ。

「すげーな。人生で初めてもらった手作りチョコが、まさかカカオ豆から作ったチョコとは。人生でこんな経験することってある?」

「生きていれば、どんな経験でもありますよ。…そう、世界が暗黒に包まれ、邪神イングレア様が支配する、真なる平等な世界に、」

「ってか、悠理兄さん。カカオ豆って何処に売ってんの?自分見たことないんだけど」

「ちょっと。話聞いてくださいよ」

はいはい、後でな。

乙無を華麗にスルーして、雛堂が聞いてきた。

俺も最初に、あの段ボール箱の中のカカオ豆を見て、同じ疑問を抱いたよ。

「寿々花さんが通販で買ったんだって。外国から輸入して売ってるサイトがあるらしい」

「へぇ〜。すげーな」

だろ?

変なところで行動力あるんだよな。あの人…。
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