アンハッピー・ウエディング〜後編〜
えー。悲報と朗報を同時に報告します。

朗報は、生まれて16年目にして、初めて女性からバレンタインチョコをもらいました。

これは大変嬉しいことである。

多分人生で二度目はないはずだが、一度でもチョコをもらったという事実だけで飯食っていける。

0と1には大きな差があると思うんだよ。

しかも。

「私の手作りなの。悠理さん、ガトーオペラはお好きかしら」

まさかの手作りチョコ。

小花衣先輩の手作りチョコなんて、あまりに畏れ多くて口に出来る気がしない。

しかも…ガトー…オペラだって?

何?それ。いかにも高級感溢れる名前だが。

そんなお菓子があるの?

ガトーショコラなら聞いたことあるけど。それとは別物?

で、悲報は何なのか、だって?

そんなの決まってるだろ。

その人生で最初で最後の手作りチョコを、あろうことか、クラスメイトの目の前で渡されたことだよ。

クラスメイト達の視線が、俺にこう言っていた。

「この裏切り者」と。

違うんだよ、これは。俺にそんなつもりはないし、ましてや小花衣先輩にもそんなつもりは全く…。

「そ…そんな。畏れ多くて、受け取れませんよ…」

クラスメイトの視線が痛くて、俺はチョコを固辞しようとしたが。

「良いのよ、気にしないで」

俺がクラスメイトに睨まれているなど、露ほども気づいていない小花衣先輩は。

相変わらず、にっこりと微笑んでこう言った。

「それに、悠理さんにはいつも本当にお世話になってるから。少しでもそのお礼がしたいの」

「あ…えぇと、そ、そうですか…。こちらこそ…」

「悠理さんの為に、と思って作ったのだから、受け取ってもらわないと困るわ。お口に合うと良いのだけど」

「だ、大丈夫です…」

お口に合うかどうかなんて関係ない。

「あの」小花衣先輩から受け取ったチョコだぞ?

例え消し炭が入っていたとしても、食べない訳にはいかないだろう。

「あ、あの…ありがとうございます…」

「どういたしまして。…それじゃあ、また水曜日の放課後に会いましょう」

「は、はい…」

「ごきげんよう」

微笑みながらそう挨拶して、小花衣先輩は颯爽と、優雅に旧校舎を後にした。

…で、取り残される俺。
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