アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…背中に突き刺さるクラスメイトの視線が痛過ぎて、振り返ることが出来ない。

オオカミの群れに紛れ込んだ羊になった気分。

視線だけで人が殺せるなら、俺はもうこの瞬間だけで、3回は死んでる。

このまま振り返らずに、いっそ全て忘れて逃げ帰ろうかな…と思ったが。

「この…裏切り者め!抜け駆けしやがってよーっ!」

「いった!」

堰を切ったように叫んだ雛堂が、俺の背中にローキックをかましてきた。

いてぇ。馬鹿。

「いきなり何すん…だ…」

思わず振り返ってしまって、クラスメイト達と目が合った。

「よくやった雛堂」と言わんばかりの表情。

おかしいだろ。何で俺が責められなきゃいけないんだ?

「自分ら非モテ男達が、バレンタインの夜に悲しく枕を濡らしてんのに…一人だけ抜け駆けとは、良いご身分だなぁおい!?」

「そ、そんなの知るかよ!義理チョコだっての」

「義理だろうが本命だろうが、女の子にバレンタインチョコをもらってる事実が自分達を裏切ってんだよ!」

何?その頭悪そうな理屈。

それなのに、クラスメイトは雛堂の言う通り、と言わんばかりに頷いていた。

四面楚歌なんだけど。誰か俺の味方、いねぇの?

「…やれやれ。人間の欲とは、かくも醜いものなんですね」

吐き捨てるように言った乙無の言葉に、今だけは全力で頷きたい気分だった。
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