アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「こっちが、雛堂がくれたバケツチロル」 

「わーい、いっぱいあるねー。美味しい」

お嬢様の寿々花さんには、チロルチョコなんて子供の駄菓子かと思われたが。

子供舌の寿々花さんにとっては、むしろご褒美だったようだ。

「ちなみに、寿々花さんはどのチロルチョコが好きなんだ?」

「えっとねー。これが美味しい」

寿々花さんは、アーモンドのチロルチョコを指差した。

成程。アーモンドも美味いよな。

で、チロルチョコの次は…。

「こっちが、乙無のチョコ大福」

「もちもちしてて美味しいねー」

和菓子好きな人だったら、大福にチョコなんて邪道、と言いそうなものだが。

寿々花さんは、勿論そんなことは全く気にしない。

美味しそうにチョコ大福を齧っていた。

良かった。

で、最後に…。

「…これが…園芸委員の先輩がくれたチョコなんだけど…」

クラスメイトから、裏切り者の烙印を押されてまでもらってきた、貴重な手作りチョコだ。

食べずに、しばらくの間神棚に飾っておきたいところだったが。

勿論そんな訳には行かないので、すぐに食べるよ。

すると。

「…?それ、見たことある」

「は?」

寿々花さんは、小花衣先輩がくれた花柄のラッピングバッグを見つめて言った。

「…あ、そうだ。思い出した…。そのラッピングバッグ、私ももらったんだ」

と言って、鞄の中をごそごそ。

出てきたのは、俺がもらったのと全く同じラッピングバッグ。

マジで?被っちゃった?

寿々花さんも小花衣先輩からチョコもらってたのか?何で…?

と一瞬考えたが、何のことはない。

元々、寿々花さんと小花衣先輩は同じクラスなんだった。

「クラスメイト皆に配ってたの、私ももらったんだー」

だって。

ほらな?言ったろ、義理チョコだって。

つーか小花衣先輩、クラスメイト全員に手作りチョコをプレゼントしてたのか?

すげーな。バレンタインにかける情熱が半端じゃない。

「開けてみるか…」

俺は花柄のラッピングバッグを開け、中身を取り出した。

「確か、ガトーオペラ…だとか言ってたが。寿々花さん、知ってるか?」

「フランスのお菓子じゃなかったかな。お姉様に送ってもらったことがある」

へー。フランスのお菓子。

いかにも優雅でリッチなお嬢様、って感じだ。

「これが…フランスのチョコ菓子…」

上手く言えないけど、チョコレートのミルフィーユみたいなケーキだ。

お店で売ってるケーキみたいだ。

これ、本当に手作りか?って思うほど完成度が高い。

食べてみると、これまたびっくりするくらい美味しかった。

ほろ苦コーヒーの、ビターな味わい。

やべーな、これ。クラスメイトに八つ裂きにされても、文句は言えないかもしれない。

「めちゃくちゃ美味いぞ、これ…」

「そうかな?私は、悠理君と一緒に作ったチョコの方が美味しいよ」

あんた、そんなこと言って。

バチが当たっても知らないぞ。
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