アンハッピー・ウエディング〜後編〜
バレンタインの翌日。

「さぁ!抜け駆けチョコの感想を教えてもらおうか!」

学校に着くなり、胸ぐら掴まれんばかりに雛堂に詰め寄られた。

抜け駆けチョコって。

「何なんだよ、朝から…」

「しらばっくれんじゃねぇ。自分達を裏切って女の子からチョコもらっといて」

知らねーよ。そんなこと言われたって。

悔しかったらあんたも、来年は園芸委員に立候補するんだな。 

「で、どうだったんだ?あのお嬢様からもらったチョコ。実は激辛デスソースが仕込まれてたり?」

小花衣先輩はそんなつまんねーことしねーよ。

「あぁ。めちゃくちゃ美味かったよ。ケーキ屋のケーキを凌ぐ美味しさだった」

こうなったら胸を張って言ってやろうと、俺は勝ち誇ったように言った。

「マジかよ。ガトーオペラとか言ってたっけ。そんな美味いの?」

「あぁ。美味かった」

「ちくしょー!悠理兄さんは味方だと思ってたのにー!」

悪かったな。

今日から敵です。

「信じられるか?真珠兄さん。兄さんもなんか言ってやってくれよ。この裏切り者に」

「何ですか。僕に話を振らないでください。僕は今、脳内で邪神イングレア様と対話してるところなんです」

雛堂は乙無に同意を求めようと声をかけたが、乙無は中二病で忙しいようだ。

いつものことだけど。

「何だと?自分ら非モテトリオ同盟の協定を破って、一人だけ抜け駆けしたんだぞ!?極刑に値するだろ!」

何?その非モテトリオ同盟って。

まさか俺も含まれてんじゃないだろうな。参加した覚えはないぞ。

「何言ってるんですか。下らない。一人でやっててください」

全くだ、乙無。

もっと言ってやってくれ。

「おのれ、悠理兄さんの罪は重いぞ。協定違反の罰を受けてもらわないとな」

「俺が何したって言うんだよ」

「よし、じゃあ週末、悠理兄さんの奢りで甘いもの食べに行こうぜ」

おい。何を勝手に決めてんだ。

「Twittersで話題のお店があってさー。行ってみたいと思ってたんだよね。でも割とお高い店だから、自分で行くのは気が引けてさー。悠理兄さんの奢りだと思ったら、遠慮なく食べれるわ」

「あんた…最低だな…」

アレだろ、あんた。他人の奢りで焼肉食いに行ったら、ここぞとばかりにA5ランクの霜降り肉とか頼むタイプ。

嫌われるぞ。

「ふん!抜け駆けして女の子からバレンタインチョコもらった奴に、説教される覚えはないね」

「…あっそ…」

「なぁ、真珠兄さんも行きたいだろ?甘いもの好きだもんな」

「ちょっと、静かにしてくださいよ。イングレア様のお声が聞こえない」

中二病で忙しいってよ。

何を勝手に決めてんだ、誰があんたらに奢るか…と言いたいところだったが。

それ以前に。

「悪いけど、今週末は無理。先約があるから」

「何だとっ?」

悪かったな。先約が優先だ。

忘れてないよな?…寿々花さんをゲーセンに連れて行くって約束。

「ま、まさか、手作りチョコくれた先輩とデートに…!?」

唇をわななかせて、雛堂はとんでもない誤解を口にした。

ちょ、何を言ってるんだ。

「悠理兄さん、あんた…!無月院の姉さんという人がありながら、他の女のこと、浮気!?同盟を裏切るに留まらず、人としてどうかと思うぞ、それは」

「ちげーよ、馬鹿!小花衣先輩じゃない、寿々花さんと出掛けるだけだよ」

「なーんだ。いつものイチャイチャデートか。心配して損した」

「…」

…なぁ、そろそろこの雛堂…。ムカついてきたから、窓の外に放り出して良いかな。
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