アンハッピー・ウエディング〜後編〜
そして、迎えた週末。

俺は寿々花さんと一緒に、近所にあるゲームセンターに出掛けた。

今日も、寿々花さんは元気いっぱいである。

「昨日ねー。凄く面白い夢を見たんだよ。聞いてくれる?」

ゲームセンターに向かうバスの中で、寿々花さんは嬉しそうに話しかけてきた。

ほう?

「どんな夢だったんだ?」

「えっとねー、共産主義の秘密結社みたいなところに潜入する、マフィアのスパイになる夢!」

どういうシチュエーションだよ、それ。

どっかの小説の主人公みたいな夢だな…。

リアルだと危険過ぎて、絶対嫌だけどな。

「スパイしながら、不思議な白い塔を研究してたんだー」

「ふーん…。そりゃ面白そうな夢だな…」

「でしょー?」

素直に羨ましい。

俺なんか昨日、ろくでもない夢を見たからな。

「悠理君は昨日、どんな夢を見たの?」

「えっ…。いや、俺は…」

…思い出す。昨日見た夢の内容を。

ある日学校に行ったら、突然クラスメイト達に手錠をかけられて、教室の前に連れて行かれ。

「バレンタインで抜け駆けをした罪」と称して、口の中にワサビのチューブを一本ぶち込まれる夢だった。

悪夢だよ。

まだ口の中にワサビの味が残ってる気がする。

「えーっと…。色んな意味で苦い夢だったな…」

「そっかー。悠理君も面白そうな夢で良かったねー」

全然面白くはなかったけどな。

正夢にならないことを祈ってるよ。切実に。




…などという他愛のない話をしているうちに。

バスが、目的地に到着。

ここからは徒歩で、ゲームセンターまで向かうことになる。
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