アンハッピー・ウエディング〜後編〜
バス停から歩いて、ものの10分ほどで目的地に到着した。

「ほら、着いたぞ。ここがお望みのゲーセンだ」

「ふぉー。…ふわぁー…」

寿々花さんは不思議な声を出しながら、興味津々でゲーセンの店内を見渡していた。

ゲーセン特有の、メダルゲームがジャラジャラ言う音や、有名なリズムゲームの太鼓を叩く音。

格闘ゲームのボタンを激しく連打する音などが、店内に響いていた。

これ、苦手な人は結構苦手だよな。

今更言うのもなんだが、とてもじゃないが、お嬢様が来るようなところではない。

騒がしいし、喧しいし、ごみごみしてるし。

しかし寿々花さんは、そんなことは全く気にしてない様子で。

「わー、色んなゲームがある。悠理君見て、面白そうなゲームがいっぱいあるよ」

むしろ、興味津々のご様子。

良かった。

うるさくてしんどい、という返事だったら、すぐに回れ右して帰るところだった。

「どれをやろうか?どれならやっても良い?」

どれなら、って。

「どれでも良いよ。制限なんてないから、寿々花さんが好きなのをどうぞ」

「えっ。良いの?」

「勿論、良いよ」

誰も、寿々花さんがやりたいゲームを制限したりしないよ。

あぁ、でも向こうのパチンココーナーは、18歳未満はプレイ禁止だけど。

それ以外なら、基本プレイ1回100円で、お好きにどうぞ。

「じゃあ、これやりたい」

寿々花さんが真っ先に指差したのは、すぐ近くにあったクレーンゲームだった。

出たな。ゲーセンのド定番ゲーム。

まずはこれをやらないことには、ゲーセンじゃないよなぁ?

まぁ、俺はやらないけど。苦手だから。

絶対取れないし。100円無駄にするようなもんだ。

「良いよ。お好きなのを選んでどうぞ」

「色々あるねー」

ひとくちにクレーンゲームと言っても、様々な景品がある。

ぬいぐるみやフィギュアが一般的だが、それだけではない。

キャラクターモノのタンブラーやブランケット、ワイヤレスイヤホンなんかの音楽機器の景品まで。

へー…。最近はこんなのもあるんだな。

しかも、一回のプレイ料金が100円じゃない。

一回300円とか500円とか。

たっけー。アホかよ。

そりゃ一回のチャレンジで取れたらワンコインだけど、多分一回だけじゃ取れないだろう。

2回3回と繰り返しチャレンジするうちに、最終的にとんでもない金額に膨らんでいくのだ。

しかも恐ろしいことに、どれほど百円玉を注ぎ込んでも、必ず手に入る保証は何処にもないということである。

怖っ。なんて恐ろしいギャンブルだ。

このチャチなクレーンを一回動かす為だけに、300円…。

特売の豚こま一パック買える値段じゃん。

そんなことを考えてしまうから、俺はいつまで経っても貧乏性なのだ。

まぁ、でも寿々花さんは初めてだし。

2、3回試しに遊んで見る程度なら、許容範囲だろう。

「どれにしよっかなー」

ぬいぐるみやフィギュアなどの経費が並ぶクレーンゲームを、一つずつ眺めて選び。

「よし、これに挑戦しよう!」

寿々花さんが立ち止まったのは、お菓子のクレーンゲームだった。
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