アンハッピー・ウエディング〜後編〜
かける言葉が見つからないよ。

「ふぇぇ…」

ぶわっ、と涙を浮かべて半泣きになる寿々花さん。

「ちょ、泣くな。泣くなって。こんなことで」

たかがクレーンゲームで空振りしただけじゃん。落ち込むようなことはない。

そんなことでいちいち泣いてたら、全国のゲーセンで一日何百人、いや何千人がクレーンゲームの前で号泣してんだ。

「大丈夫、大丈夫だよ。最初は誰でもそんなもんだ」

「…そうかな…?」

「そうだよ。だから落ち込むことないって」

たかが100円じゃん。されど100円なんだけど。

でも、財布から百円玉を落っことしただけだと思えば。

そりゃちょっとはショックだけど、そんな深刻に落ち込むほどではない。

「そうだ、もう一回やってみたらどうだ?今度は上手く行くかもしれないだろ」

「もう一回…。そっか、一回こっきりじゃないんだ」

「そうだよ。何回でも挑戦出来るよ。…百円玉を入れさえすればな」

そうして、沼にハマっていくんだろうなぁ。

でも、さすがに空振りの一回だけで諦めるのは可哀想過ぎるから。

もうちょっと挑戦させてやってくれ。

「えぇっと、もう一枚百円玉…。…あ、ない…」

財布の小銭入れを開けて、百円玉を探したが。

さっきの一枚しか持ってなかったらしく、あとは500円玉と10円玉、そして1円玉が数枚あるだけ。

なんてことだ…。千円札を両替するしかないというのか…。

まんまとゲーセンの罠に引っ掛かってしまったようで、癪だが…。

…仕方ない。

俺は、財布の中から千円札を抜き取った。

「ちょっと両替してくるよ。ここで待っててくれ」

「うん、分かったー」

「すぐ戻ってくるから」

そう言い残して、俺は両替機を探した。

幸い、すぐ近くに両替機を見つけた…のだが。

「げっ…。ただいま故障中だと…?」

故障中の張り紙が貼ってあって、使えなくなっていた。

どうすりゃ良いの?

他の両替機を探すしかないということだ。

俺は店内を小走りで探し回った。

あー、もう。寿々花さんが首を長くして待ってるって時に。

仕方ないので、近くを歩いていた店員さんを捕まえた。

「済みません、両替機って何処ですか?」

「あ、はい両替機ですね。あちらになります」

店員さんに案内してもらってようやく、故障していない両替機を発見。

やれやれ。

そこに千円札を投入して、百円玉10枚と両替した。

よし。これでクレーンゲームの軍資金を手にした。

あとは、これを持って寿々花さんのもとに戻るだけ…。

「寿々花さん、ごめん遅くなって。両替終わっ…」

「あ、悠理君お帰りー」

「…!?」

寿々花さんのもとに戻った俺の前に、待っていたのは。

とんでもなく異様な光景だった。
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