アンハッピー・ウエディング〜後編〜
危うく、両替してきた百円玉を落っことすところだった。

「すっ…寿々花さん、あんた何やってんだ…!?」

「え?だって…入れるところがなくて…」

寿々花さんは、クレーンゲームの商品受け取り口から、獲得した大量のうんまい棒を。

上着のポケットに、これでもかと詰め込んでいた。

ちょ、折れる。そんな無理矢理詰め込んだら、うんまい棒が粉々に砕けるだろ。

「て、店員さんに言えば、景品袋をくれるはずだよ」

俺は急いで、さっきの店員さんのところに駆けていき。

「何度も済みません、景品を入れる袋をください」

「あ、はい畏まりました」

というやり取りをして、大きなビニール袋をもらった。

ぬいぐるみやクッションが、軽く3つは入りそうな大きなビニール袋だ。

寿々花さんのもとに戻ると、寿々花さんは両腕に山のようなうんまい棒を抱えていた。

何これ?一体どうなってんだ?

「はい、寿々花さん。この中に入れて…」

「うん、ありがとー」

ドサドサドサ、と大量のうんまい棒をビニール袋に入れていく。

景品受け取り口に落ちた、山のようなうんまい棒を取り出しては、ビニール袋に入れていく。

一体これ、何本あるんだ?

多分、100本は下らないと思う。

何でこんなことに?俺が両替しに行ってる間に、何が起きたんだ?

誰か説明してくれ。お願いだから。

「す、寿々花さん…。一体何があったんだ?」

さっきまで、空振りしたって半べそかいてたじゃん。

あの寿々花さんは何処に。

「ちょっと待ってね、悠理君。もう一回分残ってるから。先にやるね」

「え?」

景品受け取り口のうんまい棒を、あらかた拾った寿々花さんは。

今一度、クレーンゲームと向き合い。

いつものぽやーん顔とは一転、珍しく真剣な表情でボタンを操作し始めた。

え?百円玉入れてないのに、何で動いてるの?

寿々花さんの動かしたアームは、真っ直ぐに、うず高く積まれたうんまい棒の山に向かっていった。

「よし、ここかな」

位置を狙い澄まして、寿々花さんはぱっ、とボタンから手を離した。

…ちょっと奥に行き過ぎなのでは?

もう少し手前でアームを下ろすべきだったんじゃないだろうか。

まぁ、でもそのくらい気にしなくても、と。

思った俺は、所詮ド素人だった。

寿々花さんが操作したアームは、うんまい棒の山…より、若干奥にぐさりと突き刺さり。

アームが持ち上がった拍子に、地滑りの要領で、大量のうんまい棒が景品受け取り口に滑り落ちた。

嘘だろ。土砂崩れか何か?

たった一回のアーム操作で、ドサドサドサ、と大量のうんまい棒を獲得。

「わーい。収穫収穫〜」

さっきまで、半べそかいていた寿々花さんは何処へやら。

嬉しそうな表情を浮かべて、獲得したうんまい棒をビニール袋に移していった。

あっという間に、大きな景品袋がうんまい棒でパンパン。

…出荷?出荷するのか?って思うくらいの量。

切実に、誰かこの状況について教えてくれ。

マジで、俺が両替に行ってる間に何があったんだ?
< 572 / 645 >

この作品をシェア

pagetop